Soup Friends

Soup Friends Vol.92 / 朝吹真理子さん

ことし、わたし ぐうたらする

芥川賞作家の朝吹真理子さんのように、自分のペースを守り、自分を上手に休ませることも、姿勢を保つ秘訣のようです。


ヘアメイク Mutsumi

自分らしさを保つために、大切にしていることを教えてください。

ぐうたらをすることです。あんまり感情がアップダウンしないタイプなので、20代の頃は自身が疲れているのに気づかなくて、倒れてしまうことが何度かありました。それ以来、無理しすぎないよう、自分のためにぐうたらしています。お誘いを先延ばしにしてもらったり、生活の何かをすこしさぼって、自分の気持ちを大事にして休む。人生のさまざまな面白いことを楽しむには、日常的に「休む」のが大切だと思うんです。

毎日忙しくしていると、たしかに休むことを忘れてしまいがちですね。

自分の心は「自分のもの」だけど、身体はある意味で「自分じゃないもの」。体調を崩したときに、初めて「意志ではどうにもならない身体」の存在に気づいたりして。だから、一番近くにいるけど他人みたいな「身体」のことを、ちゃんと労ってあげたい。ぐうたらすると、心身ともに休まるし、感覚が次第に冴えてくる気がします。

心と身体を休めるときは、どんなことをしますか?

私は、寝ることが大好きなんです。眠っている間は意識がなくなるから、小さな旅に出ているような感覚もありますね。パジャマを着て、ベッドを整えて、湯たんぽを入れて……という寝る準備からして、わくわくします。

アイテムには、何かこだわりがあるんでしょうか。

シーツや布団カバーは麻が好きです。この時期に手放せないのは、陶器の湯たんぽ。あたたかさがゆっくり楽しめて、本当にすごく気持ちいいんですよ。お湯を入れるときから、もう心地良さは始まっています。

どんな感じなんでしょうか?

湯たんぽにお湯を注ぐと、湯気がほわほわほわっと空間に広がってゆきますよね。あの瞬間がとても好きなんです。忙しかったり疲れていたりするときに、ぎゅっと固まっていた心がほどけて、湯気に乗って流れていくような気持ちになれる。余裕がないときでも、自分のために何かしている感覚が持てて、ほっと安らぎます。これからぬくもって眠りに行くよ、という「儀式」のようなものかもしれませんね。

ここ数年で、価値観が変わった出来事はありましたか。

私は友達同士の旅行のときでも、できればシングルルームで寝たいんですが(笑)、夫と同室でいま寝ているというのは、自分では意外でした。誰かと暮らすなんて考えられなかったのに、自然とそういう流れになりました。なかでもきっかけになったのは、彼が私のためにマットレスを買ってくれたこと。その寝心地がとても良く、深い眠りにつけたとき、彼の家が私にとっての「おうち」にもなったと感じたのははじめての感覚でした。

お二人でいるときは、どんなことをして過ごすんでしょう。

私たち、趣味がちがうんですね。たとえば、夫は流行もよく知っておいしいレストランに行きたい美食家だけど、私はこたつに入って素朴なごはんやお味噌汁食べるのが好き。でも、一緒に食事をしているとき、彼が踊るように食べている姿を見ることがあるんです。そういうときに「私が楽しめること」が拡張されていくのを感じます。二人でいることで、自分の喜びが拡張する、その感覚はとてもおもしろいです。

朝吹さんがしっかり自分自身を休ませて、柔軟でいるから、そう感じられるのかもしれないですね。

いつからか、いろんな人やものに流されるのも、そう悪くないなあって思うようになりました。私は新年の目標を決めないけれど、年のほうが勝手に改まってくれるから、私はそれに乗っかるだけで、なんだか気持ちもよく改められるんです。

朝吹 真理子(あさぶき まりこ)

1984年、東京生れ。2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞を受賞。最新刊は、著者はじめての長篇「TIMELESS」(新潮社)。

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