Soup Friends

Soup Friends Vol.89 /和田夏実さん

ろう者である両親のもと、手話を“ 第一言語”として育った和田夏実さん。現在はインタープリター(通訳者/解釈者)として活動しながらも、デザインやテクノロジーと手話を掛け合わせた表現活動でも活躍されています。Forbes JAPAN の「世界を変える日本の30 歳未満の30 人」にも選ばれた和田さんに、想いの伝え方について聞きました。

インタープリターという活動について教えてください。

主には手話の通訳士です。小さい頃から両親と社会の間で通訳のようなことをしていました。そこで感じていたのは、伝え合うということは単純な翻訳ではないということ。語り手それぞれの、考えの重みや感じ方、背景、世界観を知らないと、どうしてこの人がこのことを伝えたのか分からない。それぞれの世界にある豊かさや思ってきたことを踏まえながら伝えることを大事にしています。手話の場合、ジェスチャーや表情なども用いて相手に伝えていきますが、音声言語は伝わらない領域や温度があると感じていて、通訳としてはもどかしさを感じていました。大学に入って様々な手法を学び、言葉以外の方法で外に出していくことを学んでいきました。

和田さんの活動を見ていると、手話はとても豊かな言語だということに気付きます。

手話はとても映像的かつユニークな言語なんです。例えば、「泣く」ことも「もう涙が出すぎて、水たまりができちゃった」とか「泣きすぎて、部屋中、海になっちゃったよ」と表現します。国ごとに手話ができる過程も面白くて、アメリカの手話は単語の頭文字を手でかたどったりタイポグラフィー的なものが多く、手話発祥の地でもあるフランスはポエティックでキュート、デザイン性が高かったりするんです。手話の生まれ方も面白くて、例えば「Instagram」や「Facebook」など最近生まれた言葉は人によって表現が違う。その中から皆が「イケてる」と思う表現が手話として残っていくんです(笑)。

ご両親の影響がとても大きいと思いますが、今の活動につながるような家族の思い出などありましたら教えてください。

父親はとてもチャーミングで、私が小さい頃はごはんを食べ終えた食卓を使って、「いまから冒険にいくよ」と言って手で人の形を作って、二人で手を使ってテーブルの上を一緒に冒険したり、手話でニュースや歴史、地理のこと、科学のことも沢山教えてくれました。母はすごく奔放ですね。着物を携えてバイクでフランスを一周し、行く先々の街で日本の親善大使的なことをしたり(笑)、行動力に関しては母の影響が大きいです。私が育った家には聴者もろう者も隔てず様々な国の方がホームステイをしに来ていました。ミャンマーの人から戦争体験を、フィジーの人にはダンスを習い、フランスの人には文化について、手話を通して伺いました。それが表現の軸として強く刻まれました。

通訳をするということは色々と大変なこともあるかと思います。


自分にとってすごく心地よく、そのまま温度をともなって自分の中にとどまるような言葉もあれば、中には絶対この言葉は口から出したくないと思ってしまう言葉もあります。でもひとつ意識していることがあって、通訳をする前にその方の小さい頃にしていた名前のない遊び、例えば「白線の上を歩く」とか、を聞くんです。そうすると結構その人らしさが見えて、好きになれる要素になり、その人のコンプレックスや背景も含めて、想いの重なりや人生という時間軸で言葉を感じることが出来ます。こうやっていくつも選択肢をもって相手のことを理解していこうという姿勢は家庭での経験が大きかったです。

和田さんが以前、「スープのような温度のあるものは、言葉にとてもよく似ている」と仰っていて印象的でした。料理とコミュニケーションの関係について何か考えられていることはありますか。

言葉を通訳するときに、その温度も含めて届けることって難しいんです。例えばスティーブジョブスのスピーチは通訳を介した瞬間にすごく「冷えて」しまうんですよね。ある意味食べ物を提供することに似ているんではないかと思っています。届けるにはそれ自体の温度を知らないといけないし、冷めてしまってもアツアツすぎる状態でも出せない。言葉もごはんも、どちらも自分のエネルギーにもなりますしね。

これからどのようなことを表現していきたいですか。

手話の領域を拡げたいです。多様性をどのように受けとめるか、“ 違和感”と“ 共感” とを探りあうプロセスが次のヒントになる気がします。私はなにかを「作れる」ということがものすごく救いになっているのですが、作ったものを共有する、受けとる、残すということがもたらす未来に期待しています。マジョリティとマイノリティでの試行錯誤こそが、新しい可能性だったり、表現の幅を広げることに繋がっていくんじゃないかと思います。

インタープリター。1993年長野生まれ。ろう者の両親のもと、手話を第一言語として育ち、大学進学時にあらためて手で表現することの可能性に惹かれる。慶應義塾大学大学院修了後、視覚身体 言語の研究を行ないながら、さまざまな身体性をもつ人々と協働し、それぞれの感覚を共に模索するプロジェクトを進めている。2016年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」認定。 2017年ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)にてエマージェンシーズ!033「結んでひらいて/tacitcreole」展示。
*Photo:Kanako Baba

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