Soup Friends

Soup Friends vol.104/吉川康雄さん

アメリカを拠点に活躍するメイクアップアーティスト、吉川康雄さんの審美眼に触れると、技術だけではない、メイクの本質と楽しさを教えてくれます。目の前のひとりの姿に正面から向き合い、必要な美しさをかたちづくる吉川さんにメイクのパワーについて伺いました。


先週、日本からアメリカの自宅に戻ってきました。(取材は2020年3月31日)普段はコネチカット州にある自宅と、ブルックリンのアトリエを行き来しながら仕事をしています。自宅は森の中にあるので、忙しくて心身に余裕がなくなると、家の周りを散歩してリフレッシュします。鳥や鹿がいたり、たまに熊も歩いているような景色の中に暮らしているので(笑)。この仕事を始めて長年経ちますが、東京、ニューヨークと刺激的な大都市を経て、選んだこの場所が自分には合っているんです。

今は、それぞれの環境や状況があると思いますが、外出せずに自分の時間をゆっくりとれる機会があるなら、手持ちのメイク道具を使っていないものも含めて、すべて出して色々試してみて欲しい。毎日のルーティーンの中で無意識にするメイクではなくて、じっくり自分と向き合って、普段できないメイクを楽しむ時間にして欲しいです。


自分に似合う色を探す時、肌の色がイエローベースかブルーベースかに合わせて、同系色のアイテムを選ぶことがあると思います。その色は、肌色に馴染むかもしれないけれど、似合うとはちょっと違っていて。メイクの効果は、色調よりもコントラストに表れます。それを楽しむために、あえて肌色に馴染まない色を選んでみるのもひとつ。肌の白い人が純白の洋服を着ると全体的に綺麗だけど、肌の黒い人が白い服を着ると、肌も服もそれぞれの色が際立って美しい。肌色によって似合う色を決める必要はないんです。世の中に、こんなにたくさんの色が存在する中で、自分でリミットを作ってしまうのはもったいないから。

メイクは自分の肌に触れるので、常に変化していく自分を見ていくことでもあります。エイジングも含め、コントロールできない変化だとしても、それに対して自分なりに研究していくこと。自分の今の素材を生かして、受け入れて楽しむこと。そう、メイクが上手になる一番の方法は、楽しむことなんです。例えば、素敵だなって思う誰かがやっているメイクはその人に合っているから。それを真似てもしっくりこなかったりします。他人のスタイルでは自分自身が綺麗になれることなんてないのが普通かもしれません。すべての人は違う姿で生まれてきて、それぞれに違った魅力を持っている。その事実を信じて、自分の魅力を探し続けるプロフェッショナルに自分自身がなって欲しいんです。


2019年から「unmixlove」という美容のウェブサイトを立ち上げて、インタビューや写真撮影も始めました。自分で、メイクアップアーティストという仕事に縛りを設けていないし、やりたいことのために、必要だと思うことが自然と広がっていく。新しいことも含めて、ひとつひとつやっていく事が自分らしいやり方だなと思っています。「unmixlove」でも、女性たちのインタビューを通じて、自分らしさを守っていくことを伝えていますが、メイクは、表情をデザインするだけではなく、肌を触ったりマッサージしたり、その人をケアすることなので、心身が喜ぶことでもあります。メイク以外でも、髪を整えるとか手を触ることとか、愛情をこめて触れることで、人は生き生きと変化していきます。自分の存在を認識してもらう喜びにつながるんじゃないかな。それができるメイクには、いつもパワーを感じています。

日々の生活で、それぞれ悩みを抱えながら生きていて、傷ついたり落ち込んだりすることはあるけれど、許したり励ましたりする、自分で自分を力づけてあげるメイクをしてあげること。優しく厳しく楽しんで、自分に必要なメイクを見つけてください。


吉川康雄

メイクアップアーティスト。83年から活動開始、95年に渡米。NYを拠点にモード誌のカバー写真や広告、著名人のポートレートのメイクなど担当し、CHICCAブランドクリエイターとしても活躍。現在もNYを拠点に活動しながら、美容情報サイト「unmixlove」を立ち上げ、取材や執筆もこなす。2020年夏頃に新刊本『あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう。』(大和書房刊)の発売を控えている。

ストーリー

一覧をみる