Soup Friends

Soup Friends vol.101/川上ミホさん

フードディレクターの川上ミホさんに自分の軸を見出す方法と、「今のテーマ」を聞きました。

—川上さんが、食の世界に進もうと思ったきっかけはなんですか?

大学生の頃は、博物館の研究員になりたくて、そうした勉強をしていました。しかし、学芸員になるのはすごく難しい道だということが分かって、ウェディング会社に就職しました。20代半ばを過ぎた時、思い立って長いお休みを取ってフランスに行ったんです。そこで、おいしいワインに出会って、「私、ワインの仕事をする!」と決意、帰国してすぐにレストランで働き始めました。キャリアのスタートはソムリエです。

—おいしいワインとの出会いが今のお仕事のきっかけになったんですね。

そうなんです。その後、ご縁があって、イタリアンレストランで料理人として働くことになり、イタリアで経験も積みました。30歳を過ぎて独立し、料理家として仕事を始めた時は、メディアでのレシピ考案やフードスタイリングのお仕事が中心で。私の中から出てくる料理は、祖父母や母、イタリアやフランスでお世話になった方のエッセンスが入ったものだということ。レストランでも修業はしたけれども、私の一番のベースは、「母の味」。祖父母は農業をやっていて、祖母は料理上手、母も料理が大好きで、家庭料理の優しいおいしさだけでなく、安心安全なものを気遣って料理してくれていたことが、私のベースになっています。

—忙しい日々で、ご自身のペースを保つためにしていることはありますか。

独立したての頃までは、「相手に合わせる」ことを意識しながら仕事をしていました。仕事をする中でだんだんと、「自分が仕事を通じて伝えたいことってなんだろう?」「大切にしていることってなんだろう?」と考えたタイミングがあって。自分の軸について見つめ直した時に、「私はその人のために何ができるだろう?」と考えるようになったら、迷ったりすることはなくなりました。また、母の言葉も大事にしています。

—どんな言葉なのか気になります。

「人は人のよさがあって、自分は自分の良さがある。人のいいと思ったところは見習いながらも、あなたは変わらなくてもいいのよ」と言われたことが大きかったです。「自分は自分」と吹っ切れてからは、お声がけいただくお仕事の内容も変わってきました。「私」だから声をかけてくださる、という仕事が増えてきて、仕事もやりやすく、楽しく、気持ちも楽になりました。自分を認めることは相手を認めることと一緒。自分の個性を自分で認めないと、人のことも認められないと思うんです。

—「やりたいこと」の優先順位が変わったタイミングはありますか。

娘が生まれてきてくれてから、さまざまなことの優先順位に大きな変化がありました。「自分が受け取ってきたものを返していこう」という気持ちが強くなっていて。今の私のテーマは「繋いでいくこと、続けていくこと、受け渡すこと」。そして、「祖母、母、これまでお世話になった方からいただいたものを次の誰かに返していく」ということです。だから、仕事においても、「自分がどうなりたい」とか「自分をどうみせたいか」ではなくて、「誰かのためになるか」「誰かが喜んでくれるか」ということを大事にしています。誰かがあたたかい気持ちになって、もしかしたら将来、その気持ちをまた別の誰かに返したくなるような仕事をしていきたいと思っています。

—川上さんがこれから「やりたいこと」を、ぜひ聞かせてください。

子どもに「これママがやったお仕事だよ」と言えるお仕事だけをやろうと決めました。この冬、スープストックトーキョーに向けて作ったスープは、「大切な娘に食べさせたいスープ」を、「母の味」をベースに作りました。想いがある人達と一緒に何かをしたり、話していくと、自分の中で感情が揺れ動いて、もっとこういうことを伝えたいとか、すごくいいインスピレーションを受けます。これまでは、来る波に乗っていることが多かったのですが、これからは、自分で波を起こしてみたいですね。最近は、軽井沢にアトリエを作っています。私も子どもと一緒に、素直な感性で新たな食の可能性を探ってみたいなと。さまざまな地域に埋もれている魅力的なものや、前を向いている人たちに出会っていきたいです。

川上ミホ

フードディレクター、ソムリエ。書籍・雑誌、企業webなどメディアを中心に活動。シンプルでストーリーのあるレシピと感度の良いスタイリングに定評がある。2014年、目黒区東山にプライベートレストラン「5 quinto」をオープン。

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