Soup Friends

Curry Friends /青木ゆり子

「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp」を、2000年に立ち上げて以来、世界各国の食文化を伝えてきた、各国・郷土料理研究家の青木ゆり子さん。青木さんが一皿の料理から見出すのは、土地の歴史から、文化、人々の暮らしに及びます。さまざまな国を旅しながら、探求してきた食文化について“食を通して、世界を知ろう”と伝える青木さん自身の根っこにあるお話を伺いました。


カレーはスパイス料理であり、“カレー ”と名付けられていなくても、スパイスを使ったスープや煮込み料理は世界中にたくさんあります。私もさまざまな国で食べてきました。エチオピアの「インジェラ&ワット」、南アフリカの「バニー・チャウ」など……なぜこうして広がったかと言うと、インドが旧イギリス領だったという歴史があります。労働者として多くのインド人が南アフリカや南太平洋、カリブ海などのイギリス領だった地域に移り住んで、インド料理やその土地の食などが混ざり合った、新しいカレーが生まれました。
それでもカレーといえばインドですよね。インド国内だけでもたくさんカレーの種類があります。ざっと東西南北に分けてもそれぞれ味が違いますし、内陸と海沿いでも変化する。ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教などの、宗教や宗派によって食材が違うこともあるので、底知れぬ深さがあるなと感じます。
食文化は常に変化しています。人と人が出会って、それぞれの文化が化学反応を起こして、新しい料理が生まれる。土地に根ざす歴史があり、それによって出入りした人たちの流れがあり、すべてが混ざり合って料理が生まれている。そういった成り立ちを知ることに、食のおもしろさを感じます。




子どもの頃から、地理や歴史が好きでした。世界地図をじっと眺めながらイースター島について思いを馳せるような子で(笑)。あと、外国の切手も集めていましたね。「この国の切手はどうしてこんなに美しいのだろう?」と。今のようにインターネットで調べられないので、想像力がかき立てられてしまって(笑)。 2000年に「e-food.jp」を立ち上げたのですが、最初は会社員をしながら、各国料理店の情報を個人的に集めたウェブサイトを作っていました。ただおいしいレストランが知りたいのではなく、なるべく現地の味が体験できる専門店を調べながら、レシピを集めたり、習ったり。自分の備忘録を作るようにやっていました。もともと凝り性なので、とことん極めたくて、このスタイルで10年近くやっていましたね。そのあいだも、各国へ旅をしながら、郷土料理に関するフィールドワークを続けて、雑誌に執筆したり、企業のレシピを開発したりする仕事をさせてもらうようになり、独立しました。
去年は、書籍の取材もかねて、10カ国くらい行ったかな。これまで訪れたのは、70カ国ほどでそれほど多くはないのですが、プロとして行った国数が多いだけで浅くならないように、私は同じ国に何度も行くんです。食文化を知るためには重要ポイントとなる地域があると思っていて、中東や地中海、インドなど、シルクロードと呼ばれるエリアによく取材に行きます。文明の発祥地が集中しているエリアですね。去年は、メソポタミア地方にも行きました。様々な食の起源を旅して探っていくんです。カレー系は、インダス文明が起源だったり……歴史の勉強になってきましたね(笑)。ですが、この起源となるエリアから探っていくと、多くの国の食文化が理解しやすいんです。




旅では、宿泊先はなるべく市場の近くに探します。市場の人と、言葉が通じなくても身振り手振りで話してコミュニケーションをとりながら、地元の食材について教えてもらって。それと、ホームステイもしますね。そこで出会った家族に、家庭料理について教えてもらったり。市場の近くでホームステイをするのが私にとってベストですね。現地の観光局でレストランを調べて行くこともあります。私は、食文化を土地の歴史と組み合わせて理解することにおもしろさを感じているので、食文化を俯瞰で見ていたり、歴史を熟知していたり、食材について研究している地元の方達にどうしても話が聞きたくて。食に関するプロフェッショナルの人と話したいんです。コミュニケーションツールとして、“ 食 ” はとても重要だと思いますが、この一皿の料理に込められた背景を知ることで、一層料理が楽しめるし、その国に暮らしている人への知識も深まります。その知識をもって話をすると、その後のコミュニケーションが良い方向に変わってくる。私たちも、外国人を迎えた時に、その人がお寿司のことを語ってくれたら嬉しくなりますよね。





知る”という点では、宗教は大切です。日本で暮らしていると、実感することが少ないのですが、世界には信仰を大切にしている人が少なくありません。信仰がその人自身の哲学ですし、そこに理解を示すことが、その人へのリスペクトにもつながる。ですが、宗教は食規定や、個人の考えの違いなど、正しさを設定するのが難しい。彼らが気にするのは、正しさよりも情報がないことだと思います。知らないうちに食べてはいけないものを食べて、それに対して提供した側も黙っていることが一番よくない。できる限りの気遣いをしながら、こちらの情報を正直に伝えることが大事ではないでしょうか。今、多様な人とコミュニケーションをとる上で、少数派の人に対する配慮は世界基準になってきていると思います。 様々な国へ行き、それまでまったく違う世界で生きてきた人同士が「おいしいね」というひとことによって出会い、親しくなる喜びを感じてきました。人との出会いを通じて、その国に対しても興味が湧きますし、もし友人の国で災害があった時には、自分に何か援助できることはないかと思う。コロナ禍にある今も、心配で思い浮かぶ顔がたくさんあります。
ひとつのきっかけとして、食を通じて人と出会うことは大事だと思います。その出会いを意識して生きていると、自分の中の世界が広がるし、人生が楽しくなる。それは、この世界にとってよいことだと信じています。

文・菅原良美(akaoni)

「世界の郷土料理事典」

全世界各国・300地域 料理の作り方を通して知る歴史、文化、宗教の食規定
著者・青木ゆり子さんが運営する、各国料理レシピやレストラン情報などを提供する総合情報ウェブサイト「e-food.jp」設立20周年に合わせて出版された本書。これまでのフィールドワークや 、研究を続けてきた各国の家庭料理や伝統料理のレシピ、食文化 、宗教の食規定などを紹介する1冊です。
定価:2,300円+税
出版:誠文堂新光社にて発売中

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