お店のひみつ

視覚障がいがある方にとってもバリアフリーな店舗づくりに向けて。パートナーと私たちの歩み。

私たちは、「世の中の体温をあげる」ということを企業理念に掲げています。
どんなに忙しく過ぎていく日々の中でも、自分を大切に、優しい気持ちでいてほしい。誰かと比べられることがあっても、その素敵な個性をすり減らすことなく、生き生きと暮らしてほしい。一人ひとりに価値があり、かけがえのない存在であると実感してほしい。
そんな思いを日々のお客さまへのおもてなしにも反映するために、私たちは試行錯誤を続けています。
なかなか具体的な形にならないことも多々ありますが、それでも少しずつ学びながら歩み続けています。

例えば、私たちはビジョンパートナーであるクリアソン新宿と日本ブラインドサッカー協会が提供しているOFF T!ME Biz ®(ブラインドサッカー研修®)を受講しています。

ブラインドサッカー®を通じて、自分たちが “見えない”ということを自分ごととして体感し、そこで感じる不安はどうすれば解消するのか、どんなコミュニケーションがあったら意思の疎通がうまく図れるのかを思案します。また、10名ほどの視覚障がいをもつ選手たちにはSoup Stock Tokyoの店舗を実際に体験いただき、空間デザインやメニュー掲示方法、接客サービス等を含めたフィードバックをいただき、バリアフリーな店舗づくり、サービス提供を実現するためのアドバイスももらっています。
今回はその研修のレポートを通して、私たちの歩みの現在地をシェアさせていただきます。

講師を務めてくださった辻一幸さん(左)と内田圭さん(右)

 

目で見えない状況の中、頼みの綱は耳から入る情報。言葉で表現することの難しさと重要性を実感する。

研修に参加したスタッフは約30名。まずは講師によるデモンストレーションから。そもそも視覚障がいと一言でいっても、まったく見えない方もいらっしゃれば、非常に視野が狭い方、明るい場所もしくは暗い場所だと見えづらいという方、その見え方や程度はさまざまということを最初に教えていただきました。ブラインドサッカー®では、全員がアイマスクをし同じ条件でプレーをするので、今回の研修もアイマスクをつけて実施します。

最初のウォーミングアップは、まずアイマスクをしてまっすぐ歩くこと。これがいかに怖いことなのかということを私たちは初めて知りました。万が一誰かとぶつかってもけがをしないように、アイマスクをしている人は両腕を胸の前に伸ばして輪をつくり、自分の正面に空間を確保した状態で歩きます。5mほど離れた先にいるメンバーが、手を叩いたり名前を呼んだり、「●●さん、あと5歩くらい進んで」など距離感を伝えながら自分の方へ歩いてこれるよう誘導するのですが、歩く側からするとなかなか方向感覚がつかめず、思うように進めません。皆、恐る恐る一歩ずつ足を運ぶ様子が印象的でした。

すぐ隣でも別の声がけをしているので、自分に向けてかけてもらっている声なのかが聞き分けられないということも実感。「こっちこっち!そのまままっすぐ!もうちょっと!」など日ごろ使いがちな言葉ですが、見えない状況において「こっち」「もうちょっと」という言葉のあいまいさは、どんなに大きな声をかけてもらっても不安が解消されません。

その中で、いかに自分の名前を呼んでもらうことが安心材料になるかということや具体的な指示の重要性も感じました。

「単なる体験」ではなく「実感値を伴った経験」から学ぶ

その後は、どんどんワークショップの難易度があがります。
「次のワークは全員がアイマスクをした状態で、参加メンバーの誕生月が、1月~6月生まれ、7月~12月生まれの2グループを作り、それぞれのグループの人数を数えてください。」
と講師からお題が告げられました。

「・・・?」(一同顔を見合わせます)

最初に大きな声で、「1月~6月生まれの人~~~!」と声をあげる人、近くにいる人に何月生まれかを聞いて、同じグループであればまず手をつなぎ、一緒にゆっくりと声をあげながら仲間を探し歩く人たち、どこかで声が聞こえる方に向かってじわじわと小さなグループがつながり始めて、なんとか2グループがそれぞれに一つの輪を作り、人数を数えることができました。

このワーク後に講師からいただいたフィードバックは
「スープストックトーキョーの皆さんは、自ら声を出して発信する方がとても多いです!それは非常にいいこと。一方で、みんなが発信者になると、他の人の声が聞きづらくなることもあるので、耳を傾けることも大事です」と
これもまた学びの一つとなりました。

実際にアイマスクを着用して体を動かしながら、ワークごとに講師からのフィードバック、そして仲間同士で感じたことを共有。自分自身がどんなことに困ったのか、どんなお声がけをしてもらえると安心できるのか等を話し、また次のワークに生かしていきます。これが非常に大事な時間となり、「単なる体験」ではなく「実感値を伴った経験」になりました。

【参加したスタッフの声(一部)】
・研修時のあの一瞬でも、やはり一人で何も見えなく、どこへ行ったら良いかわからない状況は辛く怖いと感じました。そんな中で仲間たちが声をかけてくれたり手を引いてくれることが、行動だけでなく、気持ちの上でも大きな支えとなりました。私はあの時に手と声を差し伸べてもらった時の安堵感を忘れずに、世の中で同じように困っている方へ手を差し伸べて声をかけられる人になりたいと思います。
・見えづらさは人によって違い、一概に視力だけでは判断できないこと。これは“見える”“見えない”の問題ではなく、人それぞれ違うということを障がいがない人同士でも意識することで、過ごしやすい職場環境になると思いました。そして、視力に障がいがあると一緒に仕事をするのが難しいだろうというバイアスが自分にはありましたが、そんなことはないということが強く印象に残りました。
・見え方にも人によって差があり、ひとくくりにできない事が分かりました。見える、見えない、見え方に関係なく、意思表明をしっかりする事でお互いが生活しやすい環境を作り上げていたり主体的に引っ張っていくリーダー的な人がいたら、リーダーの意見に耳を傾ける人がいたり、自分はどっちなんだろうと考えるきっかけになりました。

視覚障がいのある方から見た飲食店としての「Soup Stock Tokyo」

OFF T!ME Biz ®(ブラインドサッカー研修®)で体を動かした後は、着替えて選手たちとの座談会。事前に10名の視覚障がいをもつ選手たちに、Soup Stock Tokyoの店舗にご来店いただき、スープやカレーを召し上がっていただき、その時に感じたことをレポートしていただきました。その内容を踏まえて、スタッフからさまざまな質問をさせていただき、ざっくばらんにお話いただきました。

冒頭にも記載したように、視覚障がいと一言にいってもその程度や見え方はさまざまであり、店舗体験においても感じ方には個人差があるという前提で、さまざまな気づきをいただきました。

【選手の皆さんからいただいた感想(一部)】
・飲食店に行くときは、できれば階段などを使用しなくていいように路面店のお店を選んでいる
・入口からレジまでの距離が近い方が、スタッフにも声をかけやすくて安心できる
・初めて行く店では、食べ終わった後にトレーを自分で下げるのか、置いたままでいいのかがわからないので、スタッフから「トレーはそのままテーブルに置いておいて大丈夫ですよ」と声をかけてもらい、視覚障がい者であることをわかった上での気遣いがうれしかった
・(Soup Stock Tokyoは)メニューを券売機で購入するスタイルではなかったので、レジ前で店員さんに相談しながらメニューを選べてよかった(券売機だとそもそも見えないので一人で選ぶのが難しい)
・店内の通路が狭い店はほかのお客様とぶつかる可能性があるので、できれば余裕のある空間のお店の方が安心できる

上記以外にも、私たちには想像ついていなかったさまざまな視点をいただくことができ、今後の店舗の空間づくりやサービス、おもてなしなど、あらゆる場面において活かせるヒントがたくさんあり、非常に有意義な座談会となりました。

さまざまな個性が集まるお店でありたい。歩みは続きます。

この体験での一番の気づきは、頭では理解していた(つもりの)ことを実際に自分ごととして経験してみて気づくことは想像以上に多いということ。

“目が見えない状況”において、耳から得られる情報はとても重要です。
街中にいても、商業施設にいても、飲食店にいても、まったく無音の場所はありません。雑踏の中で聞こえてくる信号機の音や駅のアナウンス、音声案内、足元の点字ブロックなど。私たちの当たり前の日常の一部になりがちなさまざまな音や景色は、誰かにとって大切な情報源であるということを改めて認識すると同時に、何よりもすぐ隣にいる自分ができることはたくさんあり、まずは自分自身ができること、声をかけてみることから始めていきたいと強く感じました。

一歩ずつでもこのような学びを反映していくことで、さまざまな個性が集まるお店にしていきたい。これからも、目の前の一人ひとりの体温をあげるためにできることを日々の中で意識し、行動していきたいと思います。

ストーリー

一覧をみる