Soup Friends

Soup Friends Vol.68 / 菅原敏 さん

You Tubeの「詩人天気予報」でも知られる詩人・菅原敏さんは、あなたが想像する詩人とは少し違っているかもしれません。詩を綴るだけでなく自ら朗読することも積極的に行っている彼の朗読会は、朗読会というより、ライブ。音楽が鳴り響き、時に笑いも起こる独特の世界。今回「スープストックトーキョーミュージアム」の音声ガイダンスを菅原さんにお願いすることにしました。「美術作品の裏にいつも詩が隠れている」と言う菅原さんにとって、美術や音楽、ファッションなどとの密接な関わり合いは何を意味するのでしょうか。

──Soup Stock Tokyoをご利用いただいたことはありますか。

東京駅から新幹線に乗る時によく利用させてもらっています。毎回、千代田線の二重橋前駅から歩いて東京駅へ行くのですが、その道中にちょうどお店があるんです。冷たい駅弁より温かく美味しいスープが飲みたい(笑)。あとは、飲み過ぎた次の日には優しいスープで身体を整えたいと思うことがあるので、そういった時に立ち寄ることが多いです。

──思い出に残っている食べ物や食べ物にまつわる思い出を、ひとつ訊かせてください。

初めて行った海外旅行がゲンズブールのお墓参りだったのですが、その時にパリで食べたバゲットは今でも忘れられないですね。そのバゲットはハムとチーズが挟んであるだけのものでしたが「パンってこんなに美味しいんだ」と感動したのを覚えています。

──はじめから自分の詩をご自身で朗読するスタイルを取っていたのですか。

はい、それは最初からやっていました。私はアメリカのビート詩人(ビート・ジェネレーション)に影響を受けているところがあるのですが、ジャズをバックに詩の朗読をしている彼らのスタイルに触れ「詩は紙の上だけにあるのではない」と感じるようになりました。活版印刷が発明される以前、詩は声で伝えられていましたし、詩と音楽、詩と音はとても近いものだと思います。

──美術やファッションなど、他ジャンルのものと詩を掛け合わせるようなことを積極的にやられているのも、そのひとつということですね

そうですね、例えば、私が詩を書いてそれを現代美術家さんに投げる。すると言葉が絵やインスタレーションになって戻ってくる。それはある種の翻訳作業だと思っていて。特に美術作品に関しては、その裏にいつも詩が隠れているような気がします。詩も美術もアウトプットの仕方が違うだけで根っこは同じというか。

──今回私たちは、ゴッホとゴーギャンというふたりの美術家に寄せたスープを新たに作ったのですが、菅原さんはこの2人の作家に対してどんな印象を持たれていますか。

ゴッホとゴーギャンがそれぞれに相手を投影した“象徴的な肖像画”として椅子とひまわりを描いていますが、それを見た時には“人物不在の肖像画”という在り方に強く惹かれました。一緒に生活した時間は長くはなく、最終的には共同生活の不和からゴッホは自分の耳を切り落として病院に入れられました。ですが、あの絵からは二人の敬意のようなものを感じますよね。実は詩の世界にも同じように、ヴェルレーヌとランボーという二人の詩人がいます。彼らの場合は恋人同士でもあったのですが、やがて二人の暮らしに摩擦が生まれ、遂にはヴェルレーヌはランボーの手首をピストルで撃ち、刑務所に。詩や美術は背景にあるストーリーや作家の人生を知った上で見ると、より色濃く鮮やかに見えてきますよね。ただの椅子の絵が、ちゃんと肖像に見えてくるから不思議です。

──詩や朗読でしか感じられないこと、他のアートでは体験できないものがあるとしたらどんなことでしょうか。

詩ならではの魅力は様々にあると思うのですが、ひとつ挙げるとしたら「行間の広がり」でしょうか。少ない言葉ゆえ、自分の想像力でページから立ち上る世界は本当に広いですし、それをぜひ感じて欲しいと思っています。自分に寄り添ってくれる詩が一篇あるだけで、人生はいくらか豊かになるのではないでしょうか。

──ある種“持ち運びしやすい”のも大事なポイントのような気もします。

確かにそうかもしれないですね。詩の面白いところは、本、インターネット、声など様々な器に注ぐことができ、仮に一篇を覚えたら、頭に仕舞ってどこへでも運ぶことができる。それと私は、旅へ出る時に詩集を持っていくことが多いのですが、旅をする時の心情と詩に親和性を感じています。

──Soup Stock Tokyoは機内食も作っているので、たとえばスープを乗せるトレーマットに詩が書いてあったり、飲み干したカップの底に書いてあったり……。詩と旅と食のコラボレーションをいつか一緒に考えてみたいです。

それはすごく良いですね。詩は、旅に行く時の心模様とすごくフィットする気がするんです。「読む気満々で旅先に持っていった本を結局ほとんど読まずに持って帰ってきた…」そんな人にも、パラパラと気ままにページをめくれる詩集はおすすめですね(笑)。

菅原敏(すがわらびん)

詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリースし逆輸入デビュー。新聞や雑誌への寄稿・連載執筆のかたわら、スターバックスやNIKE、BEAMSなど異業種とのコラボレーション、デパートの館内放送ジャックなど、詩のない場所へ詩を運ぶ独自の活動を展開している。14年にYoutubeから始まった詩と情報の合間を探るメディアプロジェクト「詩人天気予報」でも話題を集める。Superflyの作詞や美術館でのインスタレーションなど、音楽やアートとの接点も多い。15年、東京ミッドタウン『夜の読書館』館長に就任。現在は雑誌「BRUTUS」の連載『詩人と暮らし』ほか、いにしえの恋愛詩を超訳する『新訳 世界恋愛詩集』(cakes)、『詩的東京23区』(TOKYO WISE)をWEB連載中。

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