Soup Friends

Soup Friends Vol.57 / 檀上 桂太 さん

日本のスペインバルの先駆けとして、1995年に本格スペイン料理とスペインワインを提供する「Tio Danjo(ティオ・ダンジョウ)」 を恵比寿にオープン。以降、日本にバル文化を定着させた立役者のひとり、オーナーシェフ・檀上桂太さんにお話を伺いました。 スペイン料理と出会ったきっかけや、現地でバル文化に魅了された経緯、現在も日本人向けにアレンジすることなく、スペイン本 場の味と空間を提供し続ける料理人としての姿勢に迫りました。

──スペイン料理との出会いはどのようなものでしたか?

高校卒業後に料理の道へ進みました。当時働いていたホテルでは年に一度、スペインからシェフを招いてスペイン料理を提供していて、その経験がスペイン料理との出会いと興味を持ったきっかけです。

──スペインを訪れたきっかけは何でしたか?

もともと10年働いたら独立して店を持ちたいという目標を持っていましたが、10年後の29歳の時になった時に現地で料理を学びたいと思い訪れたのがスペインでした。マドリッドにあるパエリアが有名なバレンシア料理の店でした。その店のマダムに誘われて初めて行ったバルにカルチャーショックを受けました。当時日本には「バル」という言葉もないし、存在も知らなかったので「これは面白い!」と。日本には居酒屋と立ち飲み文化があるので、バルのようにタパスをつまんで酒を飲む文化は受け入れられると思ったし、料理も素材を活かしたシンプルなものが多く、日本人の味覚に合うと感じました。

──1995年、恵比寿に「ティオ・ダンジョウ」を開業されたのはどのような思いからですか?

自分が体験したスペインのバルの雰囲気をそのまま感じられる店をやりたいと思いました。当時は生ハムなどの食材やスパイス類も日本で手に入れるのは難しくて、苦労した部分も多かったです。毎年スペインに行っていたのでその度に現地で調達していました。オープン当初はスペインバルというスタイル自体が珍しかったのですが、界隈のサラリーマンのお客さまもバルの気軽さ、使いやすさをわかっていただくと何度も通ってくれたり会社の後輩を連れてきてくれたり。居酒屋で焼き鳥や冷奴を頼むようにタパスを注文し、焼酎ではなくワインやシェリー酒を飲むというスタイルが徐々に浸透していきましたね。

──食にまつわることでご自身の中で心がけていることはありますか?

食に関わる仕事を長く続けてきて最終的に行き着いたのは、自分自身が現場に立って関わることだと思います。料理もサービスも、自分自身が納得のいくものを自分の身体を通してお客様に提供する。もともと店をやりたいという想いからスタートしたので、最後まで初志貫徹したいと思いますね。もう一つは食材についても極力スペイン産のものを使うこと。最近は友人にお願いしてスペイン野菜を栽培してもらっています。

──スペインバルの魅力はどのようなところにあるとお考えですか?

バルの魅力は「止まり木の世界」にあると思います。女性一人でも仕事が終わって一杯ワインを飲みたいときってありますよね。そんな時にバルに立ち寄って、疲れを癒して家に帰る。スペインバルはそういう空間が好きな人を受け入れる場所でありたいと思います。恵比寿から地元である調布に店を移転してからも、都心に通勤する人が帰ってきて気軽に立ち寄ってもらえています。

──スープ(汁物)にまつわる思い出があれば、ぜひ教えてください。

スペインのスープでまず思い出すのはソパ・デ・アホというにんにくの入ったスープです。日本の生姜湯のように風邪をひいたときに良く食べます。お酒を飲んだあとにもにんにくと卵が入ったスープを飲むのも定番です。それに夏といえばやはりガスパチョ。働いていたレストランでもガスパチョは夏の定番メニューで仕込みも膨大な量でした。一度に100リットルくらいの大きな寸胴鍋に野菜と調味料を入れて、ミキサーもハンドミキサーではなく工事現場で使うような巨大なミキサーで撹拌して。それぐらいガスパチョはスペイン人にとっては欠かせないものですね。

──ガスパチョが生まれたアンダルシア地方のような暑さの厳しい地域では、どのように夏を乗り切っているのでしょうか。土地ならではの知恵や工夫があればぜひお聞かせください。

ガスパチョはもちろん定番ですが、バレンシア地方でとくに有名な「オルチャータ」というミルクセーキのような飲み物も欠かせません。夏になるとオルチャータの屋台も出て、日本でいうかき氷のような存在かもしれません。暑い日に地中海のビーチサイドで飲むのも格別です。

──檀上さんの原動力はなんですか?

好きなことを仕事にする。それが自分にとっての働くための原動力だと思いますね。好きなことなら大変なことも踏ん張れるし苦労もできる。生きている間の長時間を働くことに費やすわけですから、精神的にも楽しくありたいと思いますね。

檀上 桂太(だんじょうけいた)

1961年調布市生まれ。ホテルセンチュリーハイアット(現・ハイアットリージェンシー東京)の洋食調理部門勤務時にスペイン料理に出会う。1995年、恵比寿に「Tio Danjo(ティオ・ダンジョウ)」をオープン。2015年、恵比寿から地元である調布に移転。
【店舗情報】Tio Danjo(ティオ ダンジョウ)
[住所]東京都調布市布田2-37-7 エランプラス1FB
[アクセス]京王線 調布駅東口より徒歩3分
[電話]042-444-5903
[営業時間]17:00~24:00(L.O.23:30)
[定休日]月

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