Soup Friends

Soup Friends Vol.56 / U-zhaan さん

text]日本を代表するタブラ奏者として、ライブ活動や楽曲制作を通して音楽ジャンルを超えた幅広いアーティストと共演し、その独特な音色とメロディーで多くの聴衆を魅了するU-zhaan(ユザーン)さん。タブラとの出会いから演奏者への道を志した経緯、日々の活動についてのお話をうかがう中で、タブラ奏者としてのまっすぐでひたむきな姿勢が見えてきました。また修行のために毎年滞在されるインドで出会う食についてもお話をうかがいました。[/text]

──料理はお好きですか?

好きだけど、最近は基本的にインド料理しか作らないですね。昔はインドから帰ってくると当分スパイスの料理には見向きもしなかったのですが、去年の春くらいからは日本にいるときも無性にインド料理を食べたくなることが多くなりました。カレーに合わせるのは、ナンよりもバスマティ米が好きです。

──ご自宅にもたくさんのスパイスがあるのですね。

インドで一般的に使われているようなスパイスは大抵ありますね。主に風味づけに使うカスリメティ(※1)や、ベンガル地方で使われているパンチホロン(※2)というミックススパイスなどは日本で手に入りにくいので、現地に行ったときに買ってきています。
※1カスリメティ…フェヌグリークという植物の葉を乾燥させたもの。
※2パンチホロン…ホールのクミン・ブラッククミン・マスタートシード・フェヌグリーク・フェンネルなど5種類のスパイスを同量でミックスしたもの。パンチとはサンスクリット語で「5」のこと。

──インド料理ではどの地域の料理がお好きですか?

昔は南インド料理が好きでしたが、最近は東インド地方のベンガル料理にはまっています。ベンガル料理の特徴は、マスタードオイルを多用することですかね。味付けにマスタードペーストを使っている、完全にマスタード味の料理もいっぱいあります。料理自体はそれほど辛くないものが多いですが、現地では食卓に生の青唐辛子が置かれていることが多くて、それをかじりながら自分で辛さを調整します。あと、インド東部のマニプリという地域では干し納豆のようなものを食べる習慣があるのですが、その納豆カレーのレシピを習ったので最近よく作って食べています。すごくおいしいですよ。

──毎年インドに滞在しているユザーンさんですが、現地ではどのように過ごされているのですか?

昔はライブ活動もしていましたが、今はタブラの先生から教えを受けることと練習することが中心です。先生達、当然ですが猛烈に上手いんですよね。一生かかっても追いつけないのはわかってるんですが、少しでも近づけたらと思っています。タブラをはじめて20年になりますが、今でも基礎トレーニングばかりしてますよ。いつか、自分の頭の中で鳴っている音を楽器から自在に出せるようになりたい。

──タブラとはどのように出会ったのですか?

出会いは家の近所にタブラが売っていたからです。音楽は好きでしたが特に打楽器をやりたいと思っていたわけではなく、タブラに関しては外見のフォルムが可愛くて購入しました。

──タブラの道に進もうと決意されたきっかけを教えてください。

習い始めてそんなに間がないうちから、直観的に「これは自分に向いている」という確信のようなものはありました。でも、本格的にタブラの道に進む決意ができたのは活動を始めてしばらく経ってからですね。29歳のときに、カルカッタの下宿先でふと「ああ、自分は一生タブラを叩いて生きていくんだろうな」と思いました。それからは、楽器の練習を以前にもましてするようになった気がします。

──インド音楽にはどんな特徴がありますか?

自分が演奏する北インドの古典音楽は即興音楽です。音階やリズムなど細かな規則はありますが、最低限のルールを守ればあとはやりたいようにやっていい。ジャズに近い部分もあると思います。日本のライブではヒップホップ、エレクトロニカなど様々なジャンルのミュージシャンと即興でセッションすることも多いのですが、そういうインド古典音楽の背景があるので即興演奏に苦手意識はないです。

──決まった曲を演奏することと即興演奏と、どちらが好きですか?

どちらが好き、ということは特にないかな。でも即興演奏は、演奏者としての基礎能力とアイデア、それに瞬発力があれば事前準備もリハーサルも必要ないので楽ではありますね。僕の場合は基本にインド音楽があるので、やはり即興力はいつでも持っていたいなと強く思います。もちろん綿密にリハーサルを重ねて演奏をするのもとても楽しいのですが。って、なんでこんなに真面目なインタビューなんですか?スープやカレーのこととかを聞いてくれればいいのに(笑)

──自分自身の生き方や進むべき道に迷っている人に声をかけるとしたら?

「何者かになろう」とか「生活を安定させなければ」とか無理に考え込む必要はないのではと思っています。まずは自分自身が熱心に打ち込めるものや瞬間を楽しむことが大事なんじゃないかな。楽しむって大事ですよね。先のことばっかりに気を取られると、現時点の生活が楽しいものではなくなっちゃうし。もちろん生きて行けるだけの収入等は必要だけどそれにとらわれ過ぎずに、自分がいちばん夢中になれることを見つけてそれを思いきり楽しむことが、自分の進むべき道を知る手掛かりになると思います。

──昨年は初のソロアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースされました。アルバムの制作はご自身で決断されたのですか?

すごく尊敬しているミュージシャンから「今のうちに、絶対にアルバムを出したほうがいいよ」と助言を受け、それじゃあやってみるかと。アルバムでは楽曲ごとにゲストを迎えてレコーディングしましたが、参加してくれたミュージシャンは以前から一度共演したかった方や昔からの知り合いなどさまざまですね。いろんな音が入っている、おもちゃ箱みたいなアルバムにしたかったんです。

──アルバムが完成していかがでしたか?

自分の聞きたいような音楽を、大好きなミュージシャン達と一緒に作れたことにはとても満足しています。同時に演奏者としてもっともっと成長したいなと思いました。録音をして何度も聞き返す、という作業をすると、自分の演奏のよくない点などが如実にわかっちゃうんですよね。ライブはいつも1回きりなので、ライブ活動ばかりしているとわからないことにも気付けた気がします。

──楽曲を作られるときの、感性や精神を研ぎすませる方法(習慣)はなにかありますか?

基本的に僕はプレーヤーなので、楽曲をそんなに作るほうではないんですが。まあ、感性や精神を研ぎ澄ませるというよりは、いつも頭の片隅に置いているのが大事なんじゃないかなと思ったりします。作らなければならない曲のことがずっと心にあれば、何気ないことがふと頭に浮かんでヒントにつながったり、どこかに転がっているアイデアに巡り合ったりしますよね。楽器の練習なんかに関しても同じだと思います。何かを成し遂げたかったり上達したかったりしたら、何よりも常にそのことを考えていたらいいんじゃないかな。

──ユザーンさんにとって音楽に向き合うための原動力は何ですか?

もっとタブラがうまくなりたい、上達したいという気持ちでしょうね。先生の演奏を見るたびに「あんな風に上手くなったらその先にどんな世界があるんだろう?」と思っています。逆に、ミュージシャンとしての表現欲求はあまり多いほうではないのかもしれません。ただただ、もっと自由に演奏できるようになりたい。

U-zhaan(ユザーン)

オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインの両氏からインドの打楽器「タブラ」を師事。’00年よりASA-CHANG&巡礼に加入し、『花』『影の無いヒト』など4枚のアルバムを発表。’10年に同ユニットを脱退後、U-zhaan × rei harakamiとして「川越ランデヴー」「ミスターモーニングナイト」等を自らのサイトから配信リリース。salmon cooks U-zhaanの名義でも同サイトより3枚のアルバムを配信。’14年には坂本龍一、Cornelius、ハナレグミ等をゲストに迎えたソロ名義のアルバム『Tabla Rock Mountain』をリリースした。’15年、Ryuichi Sakamoto + U-zhaanとして「Tibetan Dance / Asience」を7inchレコードで発表。インドからのツイッターでのつぶやきをまとめた書籍『ムンバイなう。』を’10年に出版し話題となり、のちに続編『ムンバイなう。2スペースシャワーブックス)』も刊行されている。

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