Soup Friends

Soup Friends Vol.35 / 紫舟さん

書を用いて、文字に表情や感情をもたせた表現が真骨頂とも言える、書家の紫舟さん。NHK大河ドラマや国家プロジェクトや伊勢神宮の題字をはじめ数々の著名な作品、映像や書の立体彫刻など新しい発想で観る者を惹きつけます。世界を舞台に活躍を続ける紫舟さんに、ふわりと墨の香りが漂う事務所でお話を伺いました。

──会社員として企業にお勤めだった紫舟さんですが、書家として活動することになったきっかけを教えていただけますか?

3年会社に勤めましたが、「ここは自分の居場所はではない」と心が言っているような気がして、その消えることのない感覚を信じ、会社員を辞める決意をしました。それから3か月後のある日「書家」という言葉をおなかの奥底に見つけることができました。

──お勤めだった頃も、書は日常的に書かれていたのですか?

6歳から書を始めて高校生まで続けていましたが、それ以降、大学時代も仕事に就いてからも筆を持つことはありませんでした。子どものころも、書を仕事にしたいと考えたことはありませんでした。

──作品の内容はいつもどのように決められているのですか?

テーマは、時代性やいま考えていることに、焦点を当て深堀していくことが多いのですが、最近は日本を世界に発信するために、日本の思想性や歴史的背景や文化を作品に込めることが増えてきました。

──具体的なひとつの作品例として、シンガポールの展覧会に出品された『不屈(ふくつ)-龍-』という屏風の作品があります。これはどのようなプロセスを経て、この表現に行き着かれたのですか?

これは2012年にシンガポールでの展覧会に展示した作品です。震災への想いをテーマにした作品です。震災当時、海外の一部の人から、日本はもう立ち直れないのではないかと言われることがありました。
私たちは困難に負けずに、決して諦めずにもっと強くなって帰ってくるというメッセージを込め、「不屈」という言葉の屈を「倔」という漢字を用いて書き上げました。

──書にとどまることなくあらゆる手法で表現をしていらっしゃいますが、そこにはどのようなお考えがあるのでしょうか?

映像や立体などの視覚的な表現が伝わりやすい人もいれば、言葉を音で聴くような聴覚的なアプローチがわかりやすい人もいる。または書籍という体裁で文章として読むことが心に響く人もいる。このように人によって、感じとる受信方法も得手不得手で様々です。私は発信側としていつも「伝わる」ということを願っていて、今はまだ、表現者(=私)として、あらゆる手段をもって伝える努力をしいるところです。
たとえば、文章を書くことは、書家を始めた頃から、いま感じていることを言葉に置き換える練習のために始めてみました。『アカルイミライ』という著書は、その数年間分の蓄積です。まだしばらくは制限を設けずに、できるだけいろいろな方法でその試みを続けたいと願っています。

──紫舟さんが伝えたいこととは、日本伝統文化のひとつである「書」そのものなのでしょうか? それとも伝えたいことがあって、その表現手段が「書」なのでしょうか?

後者ですね。表現するということは「誰かに何かを伝える」ことで、根源には伝えたいことがあって初めて成立します。その表現方法は人それぞれですが、私の場合はそれが「書」でした。

──書という表現方法の特性上、「日本」や「伝統」といった既成の概念があると思いますが、そのイメージが表現を狭めることはありますか?

あまり感じたことはありません。制約が表現を強くするということはあるかもしれません。

──紫舟さんは被災地にも足繁く通っていらっしゃいますね。

ちょうど先日も石巻に行っていました。私のように個人ボランティアの方々もたくさんいらっしゃっていました。その際、みんなと話していたことは、私たちのほうが大切なものを受け取ってばかりだということです。私たちはNPO組織でもありませんし、うまく進めることや完璧なものも提供できません。ただ、みんなの「一生懸命」を持ち寄って行くと、その想いを受け取ってくださる現地の方々が居て、そこで初めて私たちに存在意義がある。私たちの気持ちを受け取ってくださる被災された方々のほうが、何か力になりたいと思っている私たちの想いを受け取ってくださる、ボランティアなのかもしれませんね。

──紫舟さんにとっての「書く」という行為そのものについてお聞かせください。

「書く」流れについてお話します。
まずは、ひとつの言葉に対し、いろいろな和紙・筆・墨をアレンジしながら、様々なタッチで様々な表情をもつ“書”を書きます。500種類くらいでしょうか。その中から、表現したいこと(=コンセプト)と表現物(=書)が矛盾なく、できる限り一致しているものを探します。好き、や、かっこいい、という基準で書を選ばず、想いが表現できているかどうかを判断基準に選びます。その判断基準は、自分自身の中で、「腑に落ちる」「しっくりくる」という感覚を大切にし、最終的に500種類の中から1枚を選びます。書家を始めた頃から、ものを選ぶための目を育てる必要性を感じ、京都や奈良で日本の伝統美や本物の和を知る勉強を、匠や名工と呼ばれる方や人間国宝にお願いし、継続的に行っています。日本伝統美がもつバランス感覚で本物を見る目を養いたいという想いからです。

──紫舟さんが「書家」として生きようと決められてから、どのようにご自身を高めていらしたのでしょうか?

書家を「天職」だと思っています。それまでの私の人生はずっと、何かに熱中したり、情熱を注ぐことはありませんでした。いま天職を見つけることができ、情熱を傾けられるものをようやく得ることができたので、よろこんで熱中している感じです。

──紫舟さんはまさに天職に手に入れましたが、いままさにそれを探していらっしゃる方にアドバイスをいただけますか?

すべての人に天職が見つかることを願っていますが、ただ天職でなくとも、どんな職業でもその仕事を好きになることは本人の想い次第で可能になるのかもしれませんね。私自身が日ごろからとても意識している、「ぴったりくる」ものの見つけ方があります。何事もやってみないとわからないうえに、やらないことで機会を失うことがたくさんあります。そこで、たとえばアトリエで絵を制作する際、自分自身に言い聞かせていることですが、「この色より別の色のほうがいいんじゃないか?」と思った時に、とりあえず試すことをやってみます。それでもわからなかったら、もっと違う答えがあったのかもしれないから、それもとりあえずやってみる。作品全部をやり直すのは大変なことなので、一部分だけ色を変えて見てみる。そんな風に、思いついたものを少しずつ試すようにしています。それでもわからなかったらもう少しで塗ってみる。そうしていくと、見えてこなかったことが見えてきたり、これだと思い込んでいたものより違う答えがみつかったりします。大切なのは全面的に広範囲でやらないこと(笑)。そのことは人生の選択や日常にも応用しています。誰かが教えてくれたアドバイスもまずやってみることを、すすめてくれた本はまず読んでみることを、心がけています。

──書を書くのにもかなりの気力と体力が必要だと思いますが、日頃から気をつけて取り組んでいらっしゃることがあれば教えてください。

規則正しい生活を心がけています。睡眠時間は7-8時間。仕事が忙しくても睡眠時間は削らないようにしています。友人たちとの食事も時間の中で思いっきり楽しむようにしています。できるだけ規則正しくしていると、身体は思っている以上に応えてくれるんですね。身体はいつも一生懸命最善を尽くしてくれます。
また休日は、水泳をしています。仲間とチームをつくっているのですが、優秀なコーチも部員にいてしっかり練習しています。なにより、OFFタイムは仲間がいることがいいですね、人生が豊かになり愉しくなります!

──最後に、いま取り組まれているプロジェクトや今後の活動について教えてください。

7月は、渋谷の西武百貨店で展覧会を開催します。今回は、絵と書を中心に制作しています。また新しい試みですのでぜひ見にいらしてください。
10月19日~20日の、恵比寿ガーデンプレイスでのラブレタープロジェクトでは、毎年、インターラクティブメディアアートの新作を発表しています。今年も、世界に日本の文化を発信できる作品をつくっています。こちらもぜひご覧ください。

紫舟/ししゅう

書道家。代表作、NHK大河ドラマ「龍馬伝」美術番組「美の壺」題字、日本政府「JAPAN」「APEC」「CoolJAPAN」、伊勢神宮「祝御遷宮」、東大寺書初奉納、等。海外、「ダボス会議」、エジプト「日本アラブ国際会議」招待公演、フランスが選ぶ「日本の未来をつくる50人」に選ばれる。第5回「手島右卿賞」受賞。

ストーリー

一覧をみる