Soup Friends

Soup Friends Vol.24 / 桜井誠さん

Dragon Ashのドラマーとして活躍を続ける桜井さんが、料理に出会ったのは中学1年の頃。以来作り続けてきた料理をまとめた本「桜井食堂」(マーブルトロン)が昨年5月に出版されました。自身のブログでは「下ごしらえ」と「つくりかた」にこだわったレシピを日々掲載中。音楽活動では新しいダンスミュージックを奏でるバンドユニット「ATOM ON SPHERE」を結成するなど、音と食を生み出すエネルギーの根っこにあるものが何なのか、お話を伺いました。

──Dragon Ashのドラマーをなさっている桜井さんですが、いつ頃から音楽を志されたのでしょうか?

中学3年生の時に文化祭で結成しました。最初の動機としては、もてたいから(笑)?はじめは乗り遅れまして、既に話がまとまったときにはドラムしか空いてなかったんですけどね(笑)、でも結果的にそれが良かったし今も楽しんでやっています。

──ご自分の料理本も出版されるくらい、今は料理と桜井さんは切っても切り離せないご関係ですが、料理をされるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

中学生の時から料理をはじめました。母親が仕事をしていたので、家に帰ると自分で食べるものは作らないといけない。料理好きの兄と一緒に結構いろいろなものを作っていましたね。最初から簡単な野菜炒めや生姜焼き、いわゆる手軽に簡単に作れるものを作っていました。それ以降もずっと料理をするのは好きでしたが、いよいよ良く作るようになったのは、家族ができてからです。基本的に食べてくれる人がいないと作らないです。嫁が実家に帰っている間なんかは作りません。

──外食についてはいかがですか?ご自宅で料理されて食べるという印象がありますが。

外食が苦手かというと、全くそんなことはありません。けれど料理の中に何が入っているかは知っていたいほうですね。仕事柄、様々な地方に行くことが多いので、行く先々で、おいしいものを食べる機会もありました。そういった経験が「料理を作る」ことへの興味と勉強に繋がった部分もあると思います。

──普段の食生活を教えてください。

朝ごはんはご飯党、昼ごはんは麺類が比較的多いですね。ラーメン屋さんに入っても、どんな麺を使っているのか、麺は手打ちなのかどうか、製麺所はどこのものなのかを観察します。味の特徴が製麺所によって出てくるのです。バックヤードに積んである箱をみればわかりますね、手打ちの店にはそれが置いてありませんから。自分でも何度か手打ちもやってみましたが難しいですね。厨房を観察するといろいろなことが分かります。最も、自分のキッチンも使いやすいように自ら作りこんでいます。普通は嫁さんが整える家庭も多いんでしょうが、うちでは自分がこだわる物を揃えます。「少し重いけど煮込むには、やっぱりルクルーゼでしょう」という具合ですね。

──料理本に繋がるきっかけになった、料理ブログはなぜ始められたのでしょうか?

最近は料理を切り口にしたインタビューなどが増えてきたのですが、もともとブログを書き始めた理由は、ほぼ毎日行う料理のメモ帳代わりに書き記していきたいと思ってはじめました。筆記は得意じゃないので、写真で残しておかないと忘れちゃうんですよ。出来るだけ再現しやすい様に写真を沢山載せて説明しています。どうせやるんだったら、「これ見て分からなかった作れないだろう」という物を残そうと思いましたね。たまに他の料理本を見ると、読んだ通りに作っても同じ味にできないしょう、というものがあるんですよ。また、下ごしらえを書いてない本がけっこう多い。本としては綺麗で、見栄えがいいけど実用書にはならない。「あそこで食べたあれが食べたい」と、作りたいものが頭に浮かんだ場合は、思い浮かべる料理の中に大体どんなものが入っているのか想像します。細かい部分をネットなどで調べ、情報で補って作っていきます。レシピを起こす時に一番頼りにしているのは自分の舌の記憶ですね。

──ブログに載っている段階の料理は、どのくらい試作した後のものなのでしょうか?

何度も何度も作って集大成を載せているというわけではありません。その日に作ったものの中から本当に美味しいものだけを載せています。基本的に日々の夕飯は冷蔵庫に残っているもので作っていますので、この料理を作るためにあの材料を買いに行くという事はやりません。スーパーに行くと、その日によって旬のものが安く手に入るのでひと通りぐるっと見てからレシピを考えます。食卓の上のバランスは考えます。あんまり皿がないのも寂しいじゃないですか。ワンプレートが好きではないんです。スネア(ドラムセットの中のひとつ)だけ、みたいな。また、家で野菜を多く取ろうと考えて作っていますね。本当に子供は正直ですよ、工夫を凝らしても、美味しいと感じてくれるものは限られていますから、「チーズハンバーグ!」しか言わないので、何が食べたい?とは聞きません(笑)。

──ご自分が「食べること」において、大切にしていることがあれば教えてください。

みんなで食べるのが一番美味しいと思いますね。一食で完結するラーメンとかは一人で食べるのもいいけれど、沢山の皿があって、時間をかけて食べる場合はみんなで食べたいという思いがありますね。メンバーとは外で食事する事が多いです。たまにホームパーティーをする事もありますが、その場合はもちろん作る係になりますね。手に入りにくい食材があったりなんかすると、これをどう料理して食べさせようか、なんてモチベーションがあがります

──ついつい作ってしまうもの?スープは作りますか?

家で作るものが基本なので、手早いもの、炒め物が多いです。何せ子どもが今か今かと待っていて時間が限られてるので、仕込みからおよそ1時間くらいで出来上がるものを考えます。でも、スープ類みたいに時間をかけて作るのも好きなんですよ。クラムチャウダーなんかは貝、バター、玉葱を炒めて一から作ります。ブイヨンは作っても、ストックしたりはしません。冷凍すると忘れるタイプですね(笑)。昨日は、うちでは酸辛湯(サンラータン)つくりました。木耳、ほうれん草、豆腐、豚肉、卵と。スープを作る時は具を沢山入れることが多いですね。飲むより食べるスープです。自宅で辣油つくっていますので、それを使いました。旨味が何層にも重なって、味の決め手になるんです。

──今まで作って一番印象に残っているものはありますか?

友達から良く作って欲しいと言われるのは麻婆豆腐ですね。四川のものを目指して作っていて、だいぶ研究しています。奥が深いんですよ。もはや4~50回以上作っていますね。お店で食べる麻婆豆腐はオイリーなので、旨味を残しながら油っぽくならないように家庭で作るにはどうしたらいいか、を考えています。辣油は自家製のもの、山椒油は中華街などの中華食材店で手に入れます。豆板醤は四川のものを使わないと本場の味が出ないんです。辛くなくてコクが強い。そら豆、塩、大蒜、などを使って一般的に作られた豆板醤ですが、3年ほど熟成され色が黒く発酵しているものを使います。日本的につくるなら豚肉。四川風にするなら牛肉。肉は塊で買って包丁でミンチします。旨味がにじみ出て、奥行きのある美味しさになります。

──味にも、料理そのものに対しても徹底的にこだわりぬく姿勢はどうやって培ったのでしょうか?

単純に好きなんです。ドラムもそうだけど好きなことはどんだけやっていても飽きない。向上心が生まれてくるので、挫折しても苦労とは思いません。好きな事だったらずっとやっていられるので努力だとは思っていないですね。

──ドラムも食も、自分のスタイルをどう確立していったのでしょうか?

ドラムの叩き方を人に習ったことはありません。それは料理へのこだわりの姿勢と共通してるかもしれませんね。基礎はある程度身につけなきゃいけないので、本などから情報を得て練習しました。一方、応用の部分は若いうちからデビューさせて貰っていたので、先輩のステージを見るたびにその演奏を見て盗みましたね。相手に聞く(尋ねる)のが好きじゃないんです。自分で理解すれば自分のものとして吸収できる。料理もその感覚と同じで、その方が達成感があると思うんですよ、その味(音)に自分で近づいたという楽しみです。また、ライブで同じ曲をやっても、毎回同じステージにならないのと一緒で、同じ食材を使って同じように作っても同じ料理にならない。体調やコンディション、気持ちによってぶれや変化が出てきますので、音楽も料理もそのライブ感が面白さなんだと感じます。

──男性ならではの料理、一番こだわっていることは?

もともと一般的にシェフと呼ばれる仕事につく人は男のほうが多いじゃないですか。女性に比べてぶれない部分や凝り性の性質が男性を料理に向かせるのかもしれないですね。餃子ひとつ取ってみても、皮から作るのはなかなか大変なんですが、達成感があるんです。何よりも美味しい。本当に一番こだわりたい部分は、既製品と手作りのときの味の差が、如実に表れるから、手作りがいい、そこだと思っています。

──料理と音楽はとても似ている?

音楽全般に似ていると思いますね、どちらにもクリエイティブな「作る作業」と、ライブなどを通して「披露する」部分。毎日お店に立っている飲食店のスタッフは音楽シーンで言えばいわばスタジオミュージシャン。シェフが作ったものを受け取って提供する。たとえばバンドに置き換えるとすると、アーティストがレコーディングをする作業はシェフがメニューを開発し、レシピを作る行為に似ています。どちらにもちゃんと「過程」が存在するんです。違いといえば、レコーディングだったら取り直しができますけれど、料理はある段階まで進むと戻れない点ですね、料理の方がそういう意味ではシビアです。ステージでお客さんの反応がリアルに見える部分と、料理を食べると、反応がすぐに返ってくる部分もとても近いですね。想像しているものがお皿に成る事と、創ってきた音を鳴らす事、その共通点が面白いと思います。「ちょっとロー切るか(低音をカットする)・・・」というのと、「醤油、少なくするか…」みたいなね(笑)。また作っていく最中に「化ける」のも醍醐味だと思います。思いがけない味になる、そういうものに出会いたいですね。

──いつも揃えておきたい調味料

醤油、みりん、酒、それから出汁ですね。昆布で取るのが基本です。鰹も使いますが、やっぱり昆布が美味しいです。鰹は濾すひと手間がかかりますので昆布になることが多いです。銘柄や無添加などこだわりがある物も溢れていますが、そういった物は値段も高いですからね、素材と合わせて使っていくので、普段使いではどんな醤油も使いこなします。メーカーによってこの銘柄が美味しいなという物はありますよ。使いながら見分けていきます。味噌は信州味噌、赤味噌などだいたい3種類くらいを合わせて使うことが多いですね。

──美味しいものを求めて旅をする場合はどこにいきたいですか?

今一番行きたい場所はイタリアですね。まだ行ったことがことないんですよ。確実に理由は食です。イタリア料理は日本料理と似ていると思うんです。旬のある食材やオイル、出汁の文化がしっかりとしていて、トマトなど旨味のある食材を使って味づくりをしている料理だと思います。いろいろなものを入れなくても手間をかけずにシンプルに美味しく作る点も似ていますね。実は、次回はパスタでレシピ本をやらないかというお話を頂いているので、シチリア島や、郷土料理などを題材にしたイタリア料理なんかできたら面白いなと思っています。映画のゴッドファーザーじゃないけど、ファミリーの料理や地方料理みたいなね。

──今後、桜井さんが取り組みたいプロジェクトがあればお聞かせいただけますか?

ATOM ON SPHERE (以下AOS)ですね。もともとスケボーキングのサポートしていた頃からの縁でSHIGEOくん(Vo、G、Programming)が発起人で声をかけられて始まりました。彼の音楽性も好きだったし、彼からやりたいことが明確に伝わってきたんですね、ダンスミュージックをバンドで表現しようというコンセプトです。僕もそちらがもともと好きだった事と、Dragon Ashではあまり表現していない分野なので是非やりたいと思いました。まずは、俺らの世代から聞いて欲しいなと思いますが、ゆくゆくは男女問わず幅広い世代に聞いてもらいたいですね。今後はどちらのバンドも、メインサブなどは関係なく同時にバランスよく進めていきたいなと思っています。ブログの更新頻度は最近減ってきたけど(笑)。

──最後に、Soup Stock Tokyo(以下、SST)についてのご感想や期待することがあれば教えてください。

駅に入っているお店を見かけますよね、初めて見た時、このコンセプトは新しいと思いました。「スープで成り立つの?」と。しかし、女性が多いお店に男性が飛び込むというのはなかなか恥ずかしいなと、尻込みする部分はありますけど(笑)。麺をやったら面白いんじゃないでしょうか。スープに漬けて食べたり、ショートパスタなど、ご飯やパン以外でも一緒に楽しめると嬉しいですね。
ありがとうございました。

桜井誠/さくらいまこと

東京都生まれ。Dragon Ashのドラマーとしてメジャーデビュー。そのほのぼのとした雰囲気とは裏腹に一旦ステージに上がるとまるで別人の様な血気余るアグレッシブなプレイで圧倒する。キッチンに立ち料理の面白さを日々探求している様子は、自身のブログで細かく掲載している。昨年の5月は料理本「桜井食堂」(マーブルトロン)を出版。和食から多国籍料理まで幅広いレパートリーを持つ。音楽活動では新しいダンスミュージックを奏でるバンドユニット「ATOM ON SPHERE」を結成し、昨年12月には1stアルバムをリリースしたばかり。

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