Soup Friends

Soup Friends Vol.13 / 清絢さん

現在発売中の書籍「[日本全国]絶品 汁物ブック」の監修者で、郷土料理研究家の清絢(きよしあや)さん。同書で紹介される日本各地の郷土色豊かな汁物の由来や作り方と、取材の中で出会った地域の人々とのふれあいを通して感じたことを、スープの思い出と共に伺いました。

──清さんにとって、スープ(汁物)とはどんなものですか?

汁物は毎日いただきます。忙しい時もごはんと汁物だけは作るようにして、具だくさんのお汁をおかず代わりにします。簡単に作れるし、煮くずれしてもおいしくいただけて、栄養も満点で、失敗が少ないので、汁物は毎日に欠かせません。

──スープ(汁物)との思い出があれば教えてください。

実家では、具だくさんのお汁が“ぐだ”と呼ばれていて、ひとつの料理のカテゴリーとして存在しています。「今日は“ぐだ”を作ろう!」という具合です(笑)。汁ものは、生活の中に身近にあるものですね。

──Soup Stock Tokyoをよくご利用いただくそうでありがとうございます。どちらの店舗にいらっしゃいますか?

学生の頃からよく行くのは、アトレ四谷店ですね。スープをテイクアウトして、外堀公園に行ってお日様の下で食べるのがすごく好きで、気持ちのいい時間を過ごせるので気に入っています。丸ビル店でもテイクアウトをして、皇居の芝生の上で食べたりします。Echika表参道店には打ち合わせの合間に寄らせていただくので、平均すると週に一回は通っています。安心して入れる感じがいいですよね。テイクアウトで利用しやすいのもすごく魅力的ですし、女の子同士でちょっとおしゃべりするのにもいいです。

──一番のお気に入りのスープがあれば教えてください。

やっぱり「オマール海老のビスク」ですね。「スープストックセット」でスープを2種類選ぶ時には必ず頼みます。もう一品はその時の気分で季節のメニューをいただくことが多いです。 実はカレーはまだトライしたことがなくて、いつもスープばかりなので、今度食べてみます。

──清さんが、郷土料理研究家として活動されるようになったきっかけを教えていただけますか?

小さい頃から料理が好きで、祖母も母も家庭科の先生をしていたので、家で一緒に料理をする機会が多かったこともあって、いつか料理の仕事をしたいと思っていました。 郷土料理がいいと思ったのは、学生の頃に日本を一人で旅したのがきっかけです。リュック一つで女の子が一人だったので、出会う人たちがよくしてくださって、その土地のごはんをたくさん食べさせてくださったんですね。 自分が知らない食べものに出会えたことが衝撃的で、外国に憧れる前に、自分の国のことや、目の前のことを全然知らないな、と気づいたんです。 また、地域の人たちとの出会いも心に残るものだったので、これをもっと伝えたいと思いました。だから、行く先々の地域で出会うおばあちゃんやおかあさんたちは、私の先生です。

──日本各地の食や暮らしをテーマに活動をされていますが、現在発売中の書籍「[日本全国]絶品 汁物ブック」の監修をするにあたり、郷土料理の中でも汁物にフォーカスされたのはどのような理由からですか?

どの地域にも汁物の料理がありますし、特徴的でアレンジが利きやすいというのと、さらに家庭でも作りやすいジャンルなので、全国の違いを知ってもらうための、とっかかりとしていいのかな、と思いました。また、その土地でないと手に入りにくい食材や季節ものの材料も多いので、あえて図鑑っぽい体裁にしてみたのですが、ネーミングがおもしろいものもあるので、そういう観点からも楽しんで読んでもらえたらいいなと思います。

──その土地を知るには、まずは食からとも言われますが、日本全国の郷土料理を召し上がってどんなことを感じますか?

風土が似ていると、食べている物も似ていることがありますね。同じ海を挟んで、四国と九州側で同じようなものを食べていたりして、そうすると海の道が見えてくるというか。 たとえば作物は、山間だとお米よりお蕎麦や雑穀を食べるのは、やはり自然環境に影響されるところが大きいと思います。味の好みも地域によってまったく違って、九州は甘めの味つけだし、東北は塩辛い味が多かったりして、素材や調理法の違いだけではなく、好みまで違います。それこそがその土地で育った身体に染みついた感覚で、「おいしい」というのもひとつの尺度では計れないな、というのがとても勉強になります。

──各地の郷土料理は、どのようにして見つけられるのですか?

文献などで気になったものを探し求めて行く場合もありますが、地元の資料館などで話を聞かせていただく場合も多いですし、何より地元の方々の情報量はすごいので、積極的に伺うようにしています。ちょっと踏み込んでみると旅が一段と面白くなったりしますよね。

──今までで「これは絶品!」という汁物があれば、ぜひ教えてください。

個人的には、山形県の庄内地方で食べる「孟宗汁(もうそうじる)」が好きですね。庄内は孟宗竹が群生する最北地で、早春に南から北上する筍前線の終着地です。竹の名前がついたこの「孟宗汁」は、5月の連休明けくらいからこの季節にだけ食べられる筍を酒粕で煮込むのですが、「そんなに入れていいの?」と心配になるくらい酒粕をたっぷりと入れて作ります。1日くらいコトコト煮込むとすごくクリーミーになって、本当においしいんです。粕汁よりももっと濃厚な感じで、食べてみるとイメージとまったく違うので、本当におもしろい体験でした。この時期にしか食べられないというのもいいですよね。 それから、滋賀県に伝わる「つりかぶら汁」は、旬のカブを葉付きのまま軒下に3か月ほど干して乾燥させ、くしゃくしゃになったものを水で戻してとろとろになるまで煮込みます。カブの甘みが濃く感じられて、こんな風に手間と時間をかけて作った分、奥深い味がするんです。じっくりと丁寧に作るのも、郷土料理のいいところですよね。

──おいしいものを求めて旅をするとしたら、どこへ行きたいですか?

日本の隅々まで歩いてみたいな、と思いますね。ひと通り47都道府県には行ったことがあるのですが、歩くのが大好きなので、まだまだ行けてない細部にまで行ってみたいです。まずは、日本をしっかりと知ってから海外に行くと、いろいろと比較できておもしろいと思いますしね。

──郷土料理を通して、現代の人々に伝えたいと思うことがあれば教えてください。

各地域でも、生活スタイルが変わり親から子へ伝える機会が減っていて、同時に郷土料理が作られる機会も減少しています。でもその土地で育った料理は、栄養面でもその土地で生きるために向いているし、地産地消が可能なものが多いので、現代的な暮らしの中でも昔からの智慧を生かした食生活をすることが、私たちにとっても意味のあることだと伝えていけたらいいな、と思います。

──都心に生活する私たちが郷土料理から学び、できることにはどんなことがあると思われますか?

その土地に足を運んで食べてみるというのもいいと思いますし、毎日の食事に取り入れられるような料理も多いので、いつものお味噌汁に○○の汁物を参考にしてみよう、という具合に親しんでもらえたら嬉しいです。日々の生活に変化もつけられるので面白いですよね。

──最後に、清さんが次に取り組みたいプロジェクトがあればお聞かせいただけますか?

私は実家がお寺なのですが、定期的に地域の方々がお寺に集まって会食をする「お講」という行事があります。その時に地域のおかあさんたちが料理を作るので、郷土色豊かな料理が振る舞われるんです。まさにそういう場で郷土料理は受け継がれることが多いので、今は全国のお講を取材してまわっています。

– まとめ –

郷土料理研究家という肩書きは真新しく、お話を伺うまでその活動ぶりに興味津々でした。日本全国を自らの足で訪ねてまわり、その土地に住まう人々の暮らしにそっと寄り添い、丁寧に取材を重ねて、郷土料理を学ぶ。しっかりと地に足のついた繊細かつ力強い取材ぶりは、実際にお目にかかった清さんのお人柄そのものでした。汁物への愛情をそのままに、これからの清さんの活動をスタッフ一同愉しみにしております。

清絢/きよしあや

郷土料理研究家。大阪生まれ、東京在住。上智大学文学部史学科卒業。学生時代より日本各地を旅して出会った、郷土料理の歴史や温かみのある味わいに魅了され、郷土料理研究家に。その土地にまつわる食文化や暮らしをテーマに、取材執筆やレシピ開発などを手がける。「[日本全国]絶品 汁物ブック」では、実際に足を運んで取材を重ねた日本各地に伝わる汁物の中から、47都道府県を網羅する選りすぐりの全70点を紹介。

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