― 3年間の取り組みを通して、どのような変化がありましたか?
實石さん:最初は漁獲量を減らす方針に、厳しすぎるのではという意見もありました。コロナと同じで初めてのことばかりです。この3年間は桜海老とそれぞれの生活を守っていくため、葛藤の日々でした。この3年間は『苦渋の判断』を迫られました。それでも周囲に理解者が増えたことは大きな変化だと受け止めています。桜海老の仕事を絶やさないことも、資源回復と同じくらい大切です。続く自主規制もあって、ここ数年で漁師を辞めてしまわれた方もいます。矛盾した話ですが、目指すのは桜海老漁を続けながら回復を実現すること。私たちにとって桜海老は”誇り”であり次世代に繋がなければ元も子もない、という思いは同じです。
實石さん:今は前回の漁を振り返りながら、慎重に操業しています。春と秋、二回の漁期がはじまっても、状況によっては予定日よりも早く打ち切ることもあります。ただ、今はまだ劇的な回復には至っていないのが現実。海の変化を感じていた漁師は多く、ほとんどは2018年の記録的不漁より前から気づいていたんです。実際に調査をすると、私たちが思っているより海は良くない状態でした。
今私たちが葛藤しながら進んでいる道は、将来的にはいずれ通る道だった。桜海老の保護と回復に終わりはありませんし、次の世代が同じような困難に直面したとき役立てたらと思います。
實石さん:こうして歴史が続いたのは、私たちと同じように桜海老を誇りに思う先輩方のおかげです。私たちのいる由比地区では、40年以上前に”プール制度”が採用されました。それからはみんなで分け前を配分し、平等に収益を得て漁師全体で桜海老を守っています。操業する船数を全体でコントロールして獲りすぎを防ぐことで、価格が安定化するだけでなく、資源保護にも有効です。導入した当時はもめたと聞いていますが、現在もプール制度は機能しています。
實石さん:正直、期待も不安も、入り混じった気持ちです。なるべく翌年に、次世代に残すことを考え慎重な判断をし下してきました。専門家の意見やデータにきちんと目を通し、漁師の経験値を生かしながら方針を検討しています。とはいえ、桜海老はどんなに手を尽くしても、全てを把握しきれない未知のことも多い生物です
實石さん:春漁の季節には毎年多くの観光客が由比の地を訪れます。雄大な富士山の前景に広がる桜海老の鮮やかな絨毯は圧巻です。地元の私たちが見ても感動するほどです。ここ数年は不漁のニュースばかりが目立ちましたが、一方で「今年はあの景色が見れる?」といった期待の声や、『早く復活してまたたくさん食べたいです!』と応援の声もいただきました。漁獲努力量を減らしていますが、産地に足を運んでいただける方にはご提供できるよう尽力しています。正直価格も上がってしまうので、心苦しいですが……。
實石さん:そうかもしれませんね。桜海老が適正な価格であれば、間接的に資源保護につながります。ほどほどに獲り、守ることが持続可能な漁業のあり方だと思います。また、私たちが一番望んでいることは、獲ってきた桜海老を上手においしく食べてもらうこと。昨年送ってくださった桜海老のスープも、オマール海老のビスクも、すごくおいしかったですよ。
― ありがとうございます。気軽に旅に出られませんが、スープの向こうに駿河湾や由比の地に、思いを馳せたいです。
Soup Stock Tokyoのスープは多くの産地とのパートナーシップによって成り立っています。私たちも生活者として5年、10年先もおいしいものを食べ続けたいですし、お客さまにもそのおいしさをお届けし続けたい。そのためにも、適正な価格で買い支えていくことを大事にしていきたいと考えています。
2020年の「産地だより 桜海老を守る人たち」について記事はこちら
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