Soup Stock Tokyoに春を運ぶ「駿河湾産桜海老のクリームスープ」。毎年お客様からご好評いただき、店舗では「今年はいつからですか?」とお声をいだくことが増えました。
この春ふたたび登場するスープには、日本では駿河湾でのみ水揚げされる桜海老が使われています。海の宝石とも言われる桜海老は、とても貴重な食材です。というのも、2018年に歴史上初となる休漁の判断がくだされて以降、桜海老の継続的な資源保護活動が続けられています。

Soup Stock Tokyoではスープの販売をお休みした2018年から、桜海老のふるさと・静岡県静岡市清水区由比(旧:庵原郡由比町)の方々と一緒に「産地だより」にて活動の背景にある人々の想いをお届けしてきました。
今回は桜海老漁業組合の方々のたゆまぬ努力と挑戦が導いた、4年目の希望をお伝えさせてください。


お話を伺ったのは、桜海老加工屋の柴田さん(左)桜海老漁業協同組合の實石さん(右)(2022/2/10取材)

ー-2021年春と秋、2回の漁を振り返っていかがですか?

實石さん:資源保護の取り組みも、今年で4年目になります。2018年以降の漁獲量は年々減っていましたが、3年ぶりに回復の兆しが見えました。しかも、通常は減ってしまう秋漁で約140トンもの漁獲量になり、今までにない嬉しい結果となりました。私自身も海に出て「徐々に回復している」と、目で見て、肌で感じました。実際に魚群探知機を見ると、群れの密度が明らかに違っていたんですよ。

ーー3年間のたゆまぬ努力が実ったのですね。これまでの桜海老の資源保護とは、どのような取り組みですか?

實石さん:資源保護の基本として船の数を管理し、操業する時間に制限をかけています。漁獲努力量といって、操業している地域のみなさんと慎重に管理をします。2018年の休漁以降は春と秋の2回漁に出ており、日々の漁獲量を見て細かく調整しています。ここ数年は自主規制というかたちで、なるべく捕らずに資源回復を待つもどかしい日々が続きました。そんな3年間を越えて、やっと桜海老が増えてきたことがわかりました。

桜海老

實石さん:漁の自主規制は、乗組員や加工業者、さまざまな関係者の生活に負荷をかけてしまいます。厳しすぎるとの批判を受けることも少なくありません。実際に資源状況は改善されているとはいえ、それぞれの生活がかかっていますから、回復を待つだけでは産業そのものが途絶えてしまいます。

ーー大変な状況が続きますが、特に課題に感じることは?

實石さん:やはり、乗組員の離職です。特に子育て世代や若い世代ほど、影響を受けてしまいます。ですので、資源保護をしながら漁獲量を増やしていくことは重要です。また、加工業者さんも規模の大小あわせて70社のうち、昨年5社が辞めてしまって。矛盾に聞こえるかもしれませんが、目指すのは、「桜海老を捕りながら増やす」ことです。

ーー守るだけでは途絶えてしまう。そのためにかじ取りをするのが、實石さんの役割なんですね。

實石さん:ええ。桜海老が増えても乗組員や加工業者が辞めてしまっていたら、地場産業として元も子もない。地元の産業、乗組員、我々の生活もありますし、全体を見て判断していかなきゃいけない。木を見て森を見ず、にならないようかじ取りに気をつけています。

ーーここ1年で新しい取り組みや、周囲の変化はありましたか?

實石さん:研究所や関係者と協議のうえ、2021年の秋漁では規律を変えました。漁獲努力量そのものを増やして操業しましたが、船上では乗組員から「これ以上捕って大丈夫?」と会話が飛び交っていました。乗組員たちが桜海老の未来を思い、一人ひとりが自分ごととして考えてくれて、胸が熱くなりました。桜海老の歴史の中でも、大きな変化が訪れていると感じましたよ。本当は捕りたいはずですし、辛い状況はすぐには変わりませんが、こうした理解や協力があってこそ、桜海老の資源保護が実現しているのだと思います。ただ、関係者の負荷を前提にしたり、美談で終わらせないよう、「希望のある操業」に取り組んでいかなくては。

ーー桜海老の取り組みが実現している背景には、歴史的な背景があるのでしょうか。

實石さん:桜海老漁は120年以上の歴史があり、過去にもさまざまな取り組みをしたと聞いています。40年以上前の事例ですが、「プール制度」を導入してからは3つの地区が連携し、みんなで分け前を配分することで、平等に収益を得て漁師全体で桜海老を守っています。それまでは捕ったもの勝ちで、速い船を買える資金力のある漁師だけが生き残れる世界でした。地域同士の連携がなかったため、捕りすぎてしまうことも問題で、大漁貧乏の年があったことも聞き及んでいます。操業する船数を全体でコントロールして捕りすぎを防ぐことで、価格が安定化し、間接的な資源保護に繋がります。

桜海老

ーープール制度があったからこそ、現在の資源保護もうまくいっていると思いますか?

實石さん:みんなで捕って地域でわけあうプール制度は、はるかにメリットが大きく、桜海老漁やこの地域の特長になりました。みんなでやっていく土壌は、先輩方が何度もぶつかりながら、桜海老を守るために築いてくれたものだと思います。漁業において、このような連携ができている地域は少ないと聞きます。

ーーみんなで桜海老を守る歴史が、實石さんの世代でも受け継がれているのですね。

實石さん:自分たちの代から次世代へ繋いでいくために、今が頑張り時なのかもしれません。みんな自分ごとだからこそ、漁獲努力量を増やすタイミングで大きな議論を呼びました。見えない海の中、研究所のデータと、海の経験値を合わせて日々判断を迫られます。ずっと漁獲量が少ないままだと、価格が高騰したままで、より多くの人に届けられません。何より一人でも多くの方に食べてもらうことが大切。食べていただくことが、間接的な資源保護に繋がります。

ーー目標としては、どれくらいの量が捕れるとバランスが良いのでしょうか。

實石さん:断言はできませんが、1000トン前後がラインになるのでは、と予想しています。価格も安定し、かつ資源保護の観点でも、翌年に捕れる量が確保された状態だと考えています。もちろん理想はありますが、自然が相手ですから、完全にコントロールはできません。だからこそ、桜海老は、日本ではここ駿河湾でしか捕れない、貴重な海の幸であることは変わりません。おいしい海の幸を知ってもらい、楽しんでもらい、桜海老のふるさとを少しでも心に留めてもらえたら嬉しいです。

sakura

Soup Stock Tokyoのスープは多くの産地とのパートナーシップによって成り立っています。桜海老の漁獲量が増えたニュースが飛び込んできたとき、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。早く、この喜びを、お客さまとも分かち合えたら……。

私たちも生活者として5年、10年先もおいしいものを食べ続けたいですし、お客さまにもそのおいしさをお届けし続けたい。そのためにも、適正な価格で買い支えていくことを大事にしていきたいと考えています。

●2021年の「産地だより 桜海老を守る人」についてはこちら


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