2019年春、「駿河湾産桜海老と春キャベツのクリームスープ」をおやすみしました。

Soup Stock Tokyoの春の定番メニュー「駿河湾産桜海老と春キャベツのクリームスープ」。
毎年恒例の“春を告げるスープ”としてご用意していましたが、残念ながら、2019年春の販売をおやすみさせていただくことになりました。

桜海老は、日本では駿河湾のみで水揚げされる貴重な海の恵みです。保護活動をしているものの年々獲れ高が減少しています。それでもSoup Stock Tokyoでは、スープを通じて全国のお客さまへ、この貴重な恵みを届けたいと思い、買い支えを続けてきました。

しかし、2018年度は記録的不漁のため、春漁は早期終漁し、秋漁については資源保護を最優先させるため、桜海老漁協組合の120年余りの歴史で初めてとなる、“休漁”の判断がくだされました。

私たちも“資源保護を最優先”という想いに賛同し、この春の販売休止を決めました。
そして、スープの「背景」にあるこうした現状をお客さまにしっかりとお伝えしたいと思い、2019年3月12日、私たちは春漁を直前に控える、静岡県由比市・由比港へと向かいました。

お話を伺ったのは、漁協組合の組合長であり漁師の實石(じついし)さんと、桜海老を中心とした加工メーカーの代表である望月さん。それぞれの立場で、今考えていらっしゃることを率直にお話くださいました。

―今日はお時間をいただきありがとうございます。ここに来る途中、たくさんの船を見つけました。

實石さん:そうでしょう、この地区は全部で120隻ほど、桜海老漁に出る船があって、漁に関わる人は720人ぐらいに及ぶと思います。桜海老漁とほぼ同時期にしらす漁もやっていますが、漁のない時期はそれぞれ土木だったり、別の仕事をしているんです。

― 桜海老漁は、春と秋でとれる海老が違うと伺いました。

實石さん:春漁で獲れるのは、越冬をして青年からいわゆる親海老で殻もしっかりしていて。秋漁だと、子供の海老が多いですね。漁獲量が年々減ってきていることから数年前から自主規制というのもしていて、とれたうちの何パーセントが規定のサイズを超えていれば漁獲してもいいというルールで慎重に漁獲をしていました。

― ここ数年の不漁で、特に顕著だったのはいつ頃からだったんでしょうか。

實石さん:年々、漁獲量の減少がありましたが、問題として大きくなったのは、昨年ですね。春は早期終漁の決断をしましたし、秋漁はこの地域の桜海老漁の120年余りの歴史ではじめて取りやめるという苦渋の決断をしました。そもそも、桜海老は非常に繊細で、水温や潮の流れ、月の満ち欠けなどさまざまな要因があわさってはじめて育っていきます。実はその成育の実態は、まだまだ研究が進んでいないところも多く、漁師たちの長年の経験や感覚値でもって判断することも多いのが実情です。

望月さん:メーカーである私たちも、實石さんたちや静岡県の皆さんと一緒に不漁の原因を探る中で、河川が汚染して栄養分が減っているのではと水質調査をしたり、水温の上昇や近海の魚の生態系の変化などもありえるのでは、と議論してきました。それでも、桜海老は普段は海の300メートルに住んでいるので日々調査をするのは本当に難しいんですよね。桜海老が食べているプランクトンは何をエサにしているのか。様々な仮説を立てて、調べれば調べるほど、まだわかっていないことが多いということがわかってきたんです。

― 120年余りの歴史ではじめて休漁ということで、漁師さんの中でもさまざまな意見があったと思います。

實石さん:本当にこればっかりは、まさに『苦渋の決断』でした。もともと桜海老は貴重な資源なこともあって、漁業のなかでも数少ない“プール制”というみんなに分け前を配分し、平等に収益を得て漁師全体で桜海老を守る方法を選んできました。それぞれにも生活がありますし、“慎重すぎるのでは?”など厳しい意見も飛び交いました。正直、いまだに心苦しい思いでいます。でもね、桜海老がいなくなってしまったら元も子もない。何と言われても、まずは資源を守る。未来のための苦しい決断ならば、漁師である私たちがしなくちゃならないと思っているんです。

望月さん:漁師さんはもちろん、加工メーカーなどの私たちのような立場の人からも様々な声が上がりました。私自身、桜海老に携わっている身として辛かったですね。桜海老はこの駿河湾でしか獲ることのできないものです。おいしい桜海老を由比から全国の人へ発信することに誇りがあります。必ず、また食べていただきたいですし、この地域一丸となって資源回復に向けて努力したいと思っています。

― 桜海老は、海産物であるだけでなく、皆さん一人ひとりの“誇り”なんですね。

實石さん:まさしくそうです。今回のことで、改めてはっきりとわかったんです。桜海老は、やはりこの地域、静岡県の財産なんだなと。この地域に出回らなかったら、全国のどこにも国産の桜海老はないんですよ。自分たちの思惑だけで漁はできない。自然の恵みとはそういうことなんですよね。今、資源回復に向けて、水産技術研究所や県、大学の研究機関とも議論をしたりしていますし、これから始まる春漁でも慎重な判断をしていこうと思っています。もう何度も、苦渋の決断を重ねてきましたが、漁業者一体となって、必ず資源を回復したい、昔の海に必ず戻していきたいという気持ちで決断をしてきました。また皆さんにお届けできるように、できることを引き続き積み重ねていきます。

Soup Stock Tokyoのスープは、数多くの生産者とのパートナーシップによって成り立っています。
「駿河湾産桜海老と春キャベツのクリームスープの販売を、今年はおやすみします」。その一言ではお伝えしきれない、“桜海老”を守り育てる方々の想いを伺いました。

現在、漁協組合では海洋の調査、桜海老の生態分析、今後の漁業方針含め、全力で資源回復のために取り組まれています。
“駿河湾産桜海老”の復活に奔走される皆さんの気持ちに思いを馳せながら、再びこのスープをお届けできる日をお待ちいただけたらと思います。

2019年の「産地だより 桜海老を守る人」について記事はこちら