産地だより

さんまは、女川の宝物

スープストックトーキョーの秋の定番メニューといえば、「女川産さんまのつみれのスープ」。2011年の東日本大震災をうけて、復興に向けて取り組んでいる方の商品を買い支えたいという想いから、2012年の秋に生まれたスープです。毎年、秋が近づくにつれ、スタッフも楽しみに待っている「女川産さんまのつみれのスープ」にはさまざまな思いが重なりながら、届けられています。


女川町は、宮城県東端の小さな港町。目の前には世界の三大漁場といわれる三陸の海が広がり、豊かな恵みと共に人々の生活があります。特にさんまは、全国でトップクラスの水揚げ量だけでなく、良質なものを見極める目利きが多いことで知られ、「女川さんまは一味違う」とプロの間でも一目置かれています。

スープストックトーキョーでは、2012年の提供開始から今までの8年間、毎年毎年、できるだけその秋に水揚げされたさんまをすぐにすり身にしてつみれを作り、みなさまにお届けしてきました。そんな中、今年は全国的にさんまが不漁の年。毎年加工をお願いしているワイケイ水産さんと話し合いを重ねた結果、今年の水揚げの状況を見ながら、一部、昨年度漁獲した冷凍のさんまも併用することとしました。苦渋の決断ではありますが、こうした背景も率直にお伝えすることで、スープストックトーキョーをいつも支えてくださる産地の皆さんの声もお届けできればと思います。


回遊魚のさんまの女川港での水揚げは8月中旬から11月初めくらいまで、とれたてのさんまを海に隣接する加工工場で鮮度高く加工しているから、新鮮でおいしいすり身ができあがります。スープストックトーキョーが長年加工をお願いしているのが、さんまをはじめとした鮮魚加工を得意とするワイケイ水産さんです。震災直後、被災した工場とその町の一帯では、さんまのすり身を団子にして、簡単なつみれ汁をみんなで分け合ったそうです。その光景をみた先代の社長が、ワイケイ水産の再出発を心に決め、今もなお、この地域で鮮魚加工を続けています。現社長の喜一さんは、スープストックトーキョーのメンバーが伺うたび、いつも温かく出迎えてくださいます。

喜一さん(写真中央)「毎年、毎年みなさんが顔を見せに来てくださること、とても嬉しく思っています。さんまもここのところ、不漁の年があり心配していますが、スープストックトーキョーさんは、すり身でのご提供だから、サイズが小さくてもおいしいものはすり身にすることができて、おいしいさんまを無駄なく使うことができるので、こちらとしてもありがたく思っています。小さくてもおいしいさんまはいっぱいあるので、もったいないですからね。とにかくね、一人でも多くの方に食べてほしいんです。おいしいから、届けたい。毎年、このスープの販売期間の数日間は、どんな反響が返ってくるか楽しみもありつつ、皆で緊張もしているんですよ。」

スープストックトーキョーが、女川町のさんまにこだわる理由も、喜一さんの「おいしいから、届けたい」という言葉に重なるところがあります。


ワイケイ水産さんの取締役・木村悦子さんは、この取り組みが始まった当初からを振り返りつつ、こんなお話を聞かせてくださいました。

― このスープも、2012年からと長きにわたる取り組みになってきましたね。

悦子さん「この商品を通して、全国の方に女川のこと、新鮮でおいしいさんまの味を知っていただくことができて嬉しいです。自分たちの会社を知ってほしいというよりも、女川のことを知っていただけたら。そんな思いのほうが大きくって、私たちもまだまだ負けないぞと思いながら、どこよりも良質なさんまをお届けしようと努力しています。」

― スープストックトーキョーでこのスープをお届けすること、どんなふうに捉えていらっしゃいますか?

悦子さん 「私も会社勤めをしていた頃、忙しさに流されて、つい食事を軽んじてしまう時があったんです。
都会で働く人や若くしてばりばり仕事をする人の気持ちがすごくわかるんです。都会の忙しいライフスタイルで、栄養を取り入れる。そして、想いがこもった食べ物を食べる。それがその人の原動力になる。食は、命をつなぐもの。だからこそ、どんなものを売るのか、その責任が大きいですよね。企業だったら利益は必要になるけれど、やっぱり社会に対してどんな価値を出すかが問われていると思うんです。全国の店舗でそうして展開をするスープストックさんに、うちのすり身を使ってもらえることを、私たちは誇らしく思います。」

「食は命をつなぐもの」。その言葉に込められた想いは、工場の目の前に続く、海のように深く、広く、豊かな意味を感じさせてくれるのです。


スープストックトーキョーでは、ワイケイ水産さんへの訪問にあわせたスープの試食会の実施や、春に行われた女川町の復幸祭や、秋の恒例行事・女川さんま収穫祭への参加など、定期的に町のみなさんとの交流を通じて、女川町の“今”を知る活動をしてきました。 ワイケイ水産さんの工場で働く皆さんに、スープを実食していただいた際に、ワイケイ水産でもたった2名しかできないつみれの練り工程を担当されている方に、「練り方にどんなこだわりがあるんですか?」とお聞きしました。そうすると、「しっかり混ぜるが、練り過ぎちゃいけん。お客さんが食べる時、口の中でつみれがくずれるように私が加減してるから。お店で、つみれにする時にもぎゅっとしないでね。すくって落とすだけでいいのよ、やさしくね」と教えてくださいました。

店舗では毎日、飛魚(アゴ)出汁を丁寧にひき、さんま魚醤を加えて味を調えてスープのだしをつくります。そこへさんまのすり身を一口大につんで出汁の中にぽとりぽとりと落としてつみれ汁を作っていきます。女川のお母さんのレシピを真似て、スープには豆腐を入れ、なめこも合わせて汁を熱々に仕上げたら、焼き目をつけながら芯まで甘く焼いた葱と、柚子でアクセントを加えた長芋とろろを仕上げにのせて、できあがり。「お店でつみれを作っているんですね!」と、時々驚きの声をいただくのですが、ほろほろとほどけていくようなつみれを作るために、やさしく、ひとつずつお店で作っています。今年は、さんまのすり身を使ったカレーも登場します。

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スープストックトーキョーのスープは、数多くの生産者とのパートナーシップによって成り立っています。刻一刻と変わる自然環境と真摯に向き合いながら、「どこよりもおいしいさんまを追求し、全国に届けたい」、そう思い海と町とを守り続ける方々がいるからこそ、私たちのもとに今日もおいしいさんまは届くのです。スープストックトーキョーでは、このスープ1杯につき10円を寄付させていただく活動を進め、これまでもたくさんのお客さまに心を寄せていただいてきました。先日、女川町へ伺ったときに目に入ってきたのは、駅に掲げられた街のスローガン「START ONAGAWA」。常に前に前にと進んでいく女川町の皆さんと思いを通わせながら、さんまを愛する町の心がぎゅっと詰まった一杯に、私たちも想いをのせて、今年も全国へお届けします。秋のごちそうを、どうぞお召し上がりください。

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