2017/2/12(Sun)@東京・中目黒

Soup Stock Tokyo × 落語の、おいしい噺

日本の伝統芸能のひとつ、落語。

”座布団一枚の宇宙“とも形容される落語は、噺家さんの巧みな表現力によって、会場そのものをあっという間に江戸時代へとタイムスリップさせてくれます。 昨年に続き第二回目となる「落語と食のじかん」。(昨年の様子はこちらから)

落語を通して日本の食や文化、江戸時代の庶民の暮らしに触れながら、昔も今も変わらない「おいしいって何だろう?」を考えたり、落語家・柳家花緑さんとSoup Stock Tokyoの共通点を感じる、そんなイベントとなりました。

2月12日日曜日、柳家花緑さんによるおいしい噺をご披露していただいたのち、花緑さんとスマイルズ代表遠山正道によるトークイベントを開催しましたので、当日の写真とともにレポートをお送りいたします。

第一部:落語家・柳家花緑さんによる演目(二席)

会場は株式会社スープストックトーキョー本社。 昨年同様、会場には高座、ネクタイブランドgiraffe特製オリジナル座布団と屏風代わりにライアン・マッギンレーの作品を壁にかけて。(昨年は、名和晃平さんの作品でした。)

そんな空間で、花緑さんの噺ははじまりました。

今回ご披露いただいた演目は、滑稽話の「親子酒」と人情ものと言われる「井戸の茶碗」。

「親子酒」で描かれるのは、お酒が好きでたまらない父と息子が禁酒をするもついつい飲んでしまうという小噺。禁酒をすることを決めたにも関わらず、父親が『1杯だけ・・・』といいつつ、どんどん飲んでしまい、酔っ払っていく様子は、思わず笑ってしまうほどリアルな酔っ払いの姿。

二席目はストーリー仕立ての人情話「井戸の茶碗」。こちらは正直な「くず屋」さんの周囲で起こる正直者同士のお噺です。くず屋の若い青年から、侍まで登場人物の特徴を声の調子や身振り手振りで見事に表現される花緑さん。もはや、目の前は複数人の役者がいる小劇場のようでした。

第二部:柳家花緑さんと遠山正道によるトークセッション

1時間ほどの落語が終わり、ジャケットにパンツスタイル(ネクタイはgiraffe)に着替えてこられた柳家花緑さんとスマイルズ代表遠山正道によるトークセッション。

舞台や演劇の経験が、落語の表現に活きている

いや~面白かったです。特に「親子酒」。もう笑いをこらえるのが大変でした。特段、大したオチとかストーリーはないですよね?(笑)

滑稽噺にはほとんどストーリーはないですね。会話だけなので。

噺家さんによって、やっぱり変わってくるんですか?

そうですね。「親子酒」自体は結構おもしろい噺なので、いろんな噺家さんがやるんですよね。噺家によって、その表現方法や喋り口調などは違いますが、誰がやってもわりと面白いウケるネタっていうのはあって、「親子酒」はその一つですね。

しかも、花緑さんご自身は飲まないのにね(笑)観察と憧れみたいなものなのかな。役者みたいなものなんですかね?

僕は芝居もやっていて、舞台なども15年以上いろんな役をやらせてもらっているのでね。落語っていうともうちょっと演技に入り込まない話も多いんですよ。僕は芝居っぽくやりたいので、酔っ払いもよりリアルに表現したいな、と。

私、歌舞伎には全然詳しくないんですが、歌舞伎はわりと棒読みっぽい感じはありますよね。

それは歌舞伎の言い方なんでしょうね。歌舞伎には歌舞伎の型というのがあると思うので。言い方や音とか、昔を踏襲していますもんね。僕はどちらかというと踏襲していないですね。うちの祖父(柳家小さん師匠)がやっていたものをそのままやるわけではないので。

おじいさまのを聞いていたりすると、似せて話したりしないんですか?

僕らは段階の芸なので、最初から自分のオリジナルを爆発させた方がいいわけではないんですね。むしろ逆。はじめは師匠の芸をそのままやったほうがいいんですよ。大事なのはそこから自分のものに昇華できるかどうかなんです。落語の場合って、メソッドという基礎がないんで、発声しかり自己流なんですよ。僕の場合は、演劇もあったし、個人的に歌も習っていたんで、そういうのが役に立っていますね。

「井戸の茶碗」のときに、まさに発声みたいなものを感じました。

確かに侍の話し方などは、自分の喉を自在に開いたりしないと出しづらいですね。喉だけでやってしまうと潰してしまいますよね。僕の場合は、さきほども言いましたが演劇をずいぶんやっていたので、鍛えられたかもしれません。もし落語だけやっていたら、こんな声にはなっていなかったかもしれないですね。というのも、僕、子どものときダミ声だったんです。でもだんだん声が変わってきましたね。

今日も、まくらから入っていく、あそこの部分がしびれました。あういう芸風って、落語以外にあるんですかね?

落語が一つの特徴でしょうね。演劇とかは役に入って舞台に立つわけですから。素の自分からだんだんと話に入る、しかもそこに台本はないというのは落語ならではですね。

今だと、現代の日常会話と古典落語の言語って違うじゃないですか。昔は、同じ言葉だったんですよね?

昔の落語って、同時代のことをしゃべっているので、古い噺をするというわけではないんですよね。だから、江戸時代に江戸時代のこと、つまり同時代のことを話しているので、今のお笑いと同じなんです。 笑いの質は違うかもしれないけど、面白いことをしゃべろうと思っているし、笑おうと思ってお客様も来ている。 凄く身近な話題を演じて、それを面白くしているんですね。

(作品を指差して)これはね、ライアン・マッギンレーというフォトグラファーの作品なんですけど、富嶽三十六景的な、浮世絵にも見えてくる雰囲気もあるのかなと思いまして。

落語×〇〇の新たな可能性を探る

これ、合成したものなのかなと思いました。本物の写真なんですか?

そうなんですよ。彼は、20人くらいでいろんなところを旅しながら、撮影しているんですね。 Edithion3といって、世界に3枚だけあるうちの1枚なんですね。 この写真を撮るのに、何千枚もシャッター切ったと思うんです。そのうちの1枚だと思うと、すごいですよね。 なんか、浮世絵の造形にも見えてくるような気がして。落語と現代アートって、うまく合うような気がしますね。 今日は「食」というキーワードもあるイベントですが、なんか落語もいろんな入口があっていいと思うんですよね。現代アート好きな人が集まるような会とかね。
そういえば、花緑さんのあのCD、聴かせていただきました!すごいですね~あれ!

ありがとうございます。クラシックバレエの「ジゼル」という演目を僕が落語にして「おさよ」というCDを出したんです。15年以上前にね。 僕がピアノを弾けると言ったら、じゃ~ピアノと落語を合わせて「ピアノ噺」でCDを出そう、となりまして。 1枚目は、シェイクスピアを「じゃじゃ馬ならし」として出したんです。これにはショパンの曲をちりばめて。 2枚目は、クラシックバレエの「ジゼル」を「おさよ」という名前にかえてやりました。これは、ドビュッシーの曲を弾いているんですね。

ピアノは昔から弾いていたんですか?

はい、僕はもともと三味線を習っていたのですが、兄の影響で10歳くらいからピアノも習い始めて、それから弾いていました。そうすると、自分の落語会で弾きたくなってくるんですね。それで、落語と落語の間にやりはじめたんですね。めくりに「おぼっちゃんの部屋」って書いてピアノを弾いていたんです。

それで、今度バレエ団と一緒に舞台をやるんですよね?

そのCDをきっかけに、2年前、東京シティーバレエ団からまさかの一緒にコラボしませんか??とオファーをいただいたんです。でも僕はお断りしたんです、最初。そんな馬鹿な話はないよ、と(笑)だってね、「おさよ」を踊ってくれるならいいさ。でも「ジゼル」をやるんでしょ?と。せっかく江戸の「おさよ」を想像しているところに、王子様とジゼルが出てきたら、お客様混乱するでしょう?と。 そしたら「もう画は想像できてますから!」と強く説得されて(笑)。それでやけっぱちでやったら、まさかの大ウケだったんですね。 バレエファンは、ジゼルという演目は、知ってはいたけどこんなストーリーだとはわからなかったっていうんですよ。バレエで印象的な部分を踊っていただいたあと、僕が出てきて落語の噺をする。そういう形で交互にやったんですね。その結果、ありがたかったのは落語の横でバレエをやってくれると、落語の格調が高くなっちゃって(笑)

今年は、さらに生のオーケストラを入れるっていうんですよ。もうどういう稽古をやればいいのかわからないです(笑)

ぜひ行ってみたいですね。 あっという間に時間が来てしまいましたね。花緑さん、どうもありがとうございました!

<おまけ>

こちらは、通常お弟子さんがその日話した演目を書いて貼りだすもの。今回は、花緑さん直筆で書いてくださいました!イラストも素敵です。こちらは、通常お弟子さんがその日話した演目を書いて貼りだすもの。今回は、花緑さん直筆で書いてくださいました!イラストも素敵です。

第三部:おいしい時間 (立食懇親会)

「落語と食のじかん」にちなんだ軽食と日本酒をお愉しみいただきながら、花緑さんや参加者同士のみなさんとの交流を楽しんでいただきました。

今回のメニューは江戸の食文化からヒントを得て以下の内容にしました。 ・おでん
・いなり寿司
・竹虎・雪虎(江戸時代の人気のおつまみ:焼いた厚揚げに大根おろしや葱を乗せたもの)
・日本酒(八海山:冷酒・お燗・甘酒)
・まんじゅう

八海山さんにご協力いただき、日本酒の冷酒、お燗、甘酒をご用意いただきました。

昨年に続き開催した「おいしい教室~落語と食のじかん~」。落語という日本の伝統芸能を通して、江戸時代の庶民の暮らしに思いを巡らせ、今を生きる私たちと共通する部分や共感するものを感じることができる時間となったのではないかと思います。 舞台演劇をはじめ、ピアノ×落語、クラシックバレエ×落語など、さまざまなチャレンジをされている花緑さん。 Soup Stock Tokyoも、昨年は和のスープストックトーキョー「おだし東京」や、休日のスープストックトーキョー「also Soup Stock Tokyo」をオープンさせるなど、新たな取り組みを行っています。 花緑さんにおいても、Soup Stock Tokyoにおいても、そういったチャレンジが自分自身のフィールドを拡げ、新たなお客様との出逢いに繋がっていくということを改めて感じました。

「おいしい教室」では、今後も食をとして様々な世界を覗きながら、皆様と一緒に「おいしいって何?」ということを考えていきます。


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