Soup Stock Tokyo MUSEUM

音声ガイド

作品に関する裏話などを音声ガイドでお楽しみいただけます。リーフレットに記載してある番号にしたがって音声ガイドをお聞きください。店内でヘッドホンの貸し出しをしております。ご入用の方はスタッフまでお尋ねください。(数に限りがございます)
ナレーション・菅原敏

はじめに

Soup Stock Tokyoミュージアムにようこそ。みなさんこんにちは。ここはスープの美術館です。Soup Stock Tokyoのスープは、そのひとつひとつが作品です。今回「ゴッホとゴーギャン展」に合わせて二つの新作スープをご用意しました。スープをお召し上がりいただきながら、作品の奥に広がるストーリーやSoup Stock Tokyoのスープへのこだわりを、どうぞお楽しみください。

滋味深く、黄金色に輝くスープ。誕生の裏側は?

南フランスのアルルで、収穫前の麦畑を見たゴッホは、その場でイーゼルを広げ、目の前に広がる小麦畑の黄金色に輝く美しさや大地の恵みに心を震わせ、情熱的な筆づかいで作品に迫りました。印象派の流れにおもねいていたパリ時代の創作スタイルに比べ、本来彼が好んだ自然や、畑の中で生きる人々の姿が素直に、明るく描かれています。今回、新しい「ゴッホスープ」を作るにあたって大事にしたかったのは、そんなゴッホの純粋な想いです。決して華美ではなく、贅沢でもない。けれど自然本来の美しさとひたむきに働く農民たちへの愛情を表現しました。色彩の表現では細かく刻んだ野菜を、短い絵筆のタッチに見立てています。当時の彼らの主食でもあった麦の素朴な食感にはスペルト小麦を、輝く黄金色の風景はどこかエキゾチックな香りのするサフランを使って黄色いスープを演出しました。目を閉じて味わうと、まるでそこに麦畑が広がっているような気がしてきます。

目の前の景色を、後日カンヴァスの前で想像し、記憶を手繰り寄せるゴーギャン。

イマジネーションを広げて自分の世界を描きあげていくのが、ゴーギャンのスタイルです。カンヴァスに平たんに色を塗り、神秘的な色使いで作品を描いたゴーギャン。彼の世界を、スープカップの中にどうやって表現しようか、考えを重ねた結果、二人が暮らしたアルル地方の調理法アルロネーズソースをヒントにビールで豚肉を煮込み、ひよこ豆のペーストや大麦を合わせたスープが出来上がりました。また、ゴーギャンもゴッホも、日本の浮世絵に影響を受け、作品の中にもその要素を取り入れています。彼らがジャポニズムへの憧れを作品に表現したように、ゴーギャンのスープには日本人になじみの深い昆布出汁を忍ばせています。そしてほんのり辛味のあるオイルで南仏の太陽の輝きを、紫玉ねぎのソテーで、ゴーギャンの記憶と想像を表現しました。

共に暮らしたゴッホとゴーギャン。2人はライバル?それとも親友?

南フランス、アルルでの共同生活は、ゴッホがゴーギャンを招き入れるかたちで始まりました。太陽が輝く南仏の地で、ゴッホはたびたびゴーギャンを家の外へと誘っていたようです。同じ風景の中でともにイーゼルを立て、一緒に創作活動をする姿もありました。しかし、ゴーギャンとゴッホの作品へのアプローチは対照的なものでした。ゴッホの『収穫』は目の前に広がる麦畑の情景が素直に描かれているのに対し、ゴーギャンが同じ題材を描いた『ブドウの収穫、人間の悲惨』では実際に見た景色を体で感じたのち、自身の部屋に持ち帰り、貧しい人物を加筆するなどして生命の陰影を表現しています。その場で絵を仕上げていくゴッホと、家へ持ち帰り想像力をもって描いていくゴーギャンは、作風や姿勢が異なります。ゴッホはこのことでゴーギャンから受ける指摘によって、次第に精神をすり減らせていったと言われています。大雑把でおおらかなゴッホと、几帳面で神経質なゴーギャン。それでも彼らはお互いを気遣いあい、思いやりとともに時間を過ごしていたと言います。

食で繋がるゴッホとゴーギャン。ゴッホが作ったスープとは!?

ゴーギャンはマネが描いた素晴らしいハムの静物画を目にし、この絵を描いたのだと言います。美味しそうで美しい印象を与える本作はゴッホが描く芽が出たタマネギとは対照的な印象を与えています。なんでも要領よくこなし、料理上手でもあったゴーギャンと、不器用だったゴッホは正反対の性格。ゴーギャンのことが大好きだったゴッホは、貧しい暮らしのなかでも、何かできることはないかと、ある日、ゴーギャンへスープを作って食べさせたという話が残っています。オランダ人だったゴッホは、じゃがいもを使ったスープを作ったそうです。お味のほうは、果たしてどうだったのでしょうか。美味しかったという記録はいまのところ見つかっていないようです。

「ゴッホの玉葱のスープ」誕生秘話

Soup Stock Tokyoに「ゴッホの玉葱のスープ」が誕生したのは、2010年の10月に東京・六本木にある国立新美術館で開催された「ゴッホ展」がきっかけでした。フランスでは味噌汁のように国民的に愛されている「オニオンスープ」。Soup Stock Tokyoらしい味付けで、ストーリーのあるオニオンスープをいつか作りたいと思っている時に巡ってきた、ご縁でした。この時、展示会にはゴッホの代表作である『灰色のフェルト帽の自画像』や、『タマネギの皿のある静物』が展示されました。キュレーターの林綾野さんと一緒に、その時代の食文化の背景や、ゴッホがどんな生活をしていたのか、どんな性格だったのか、などを読み解き、想像しながら作ったスープが「ゴッホの玉葱のスープ」です。玉葱が描かれている机の上を何度も眺め、試作を繰り返し、味を決めていきました。エネルギー溢れるゴッホの生き様と、慎ましい暮らしの農民の姿が浮かび上がってくるような一杯が完成したのです。

芽吹く玉葱に、コーヒー、意識的に組み合わせ描いた意図は何だったのでしょうか?

『タマネギの皿のある静物』には実に様々なものが力強いタッチで描かれています。愛用のパイプ、芽を伸ばす玉葱。火の灯ったろうそく、「健康年鑑」と記された自然療法の本、弟への手紙、満たされたコーヒーのポット。オランダ人は、それはそれは1日に多くのコーヒーとタバコを嗜むと言われています。ゴッホもゴーギャンも当時は高級品であったはずのコーヒーを好み、食べ物がなくてもコーヒーを1日10杯くらい飲んだ、などと記録に残っているようです。よっぽど好きだったのでしょう。静かに見えるこの絵のなかには、たくさんのメッセージが込められています。またこの作品は、ゴッホとゴーギャンが共に暮らした日々が破綻してしまった末に起きた悲劇「ゴッホの耳切事件」の後の作品です。「芽を伸ばす生命力溢れた玉葱」には「僕はまだ元気です。もっと頑張ります!」という想いがこめられているのかもしれません。コーヒーやパイプも、去って行ったゴーギャンを想い出し、懐かしみながら描いたのかもしれません。

「芸術家のレモンと鶏肉のスープ」通称“ピカソスープ”、果たしてその由来とは?!

ゴッホやゴーギャンだけでなく、セザンヌやアンリ・マティス、そして南スペインの港町マラガで生まれたパブロ・ピカソもまた、地中海沿岸で多くの作品を遺しています。ピカソが南仏のヴァロリスで撮った1枚のポートレート写真をご存知でしょうか。横縞のシャツを着たピカソが、テーブルの上に空っぽのお皿と、大きな手の形をしたパンを置いてポーズをとった一枚。ピカソのユーモアが表れた有名なポートレートです。この空のスープ皿にはどんなスープが入っていたのか。そんな妄想からレシピ作りが始まったこのスープを、私たちはひそかに「ピカソのスープ」と呼んでいました。生涯7万点に及ぶ作品を遺し、91歳まで生きた情熱の人、ピカソ。彼が好んだスープはきっと、独創的でユニークだったに違いないと、私たちは思いました。さて、本当はどんなスープがピカソの皿に注がれていたのでしょう。

オマール海老のビスクの味を測るメーターがあります。

オマール海老のビスクは、一年を通して製造され、365日みなさまのもとにお届けしている唯一のスープです。毎朝、さんさんと朝日の差し込む工場の管理室に、出来上がったオマール海老のビスクが運ばれてきます。次に入ってくるのは、スープの製造を統括する工場のシェフ。シェフは、丁寧に作られたオマール海老のビスクをひと釜ずつ、舌先、ベロの感覚、つまり「ベロメーター」で味を確かめていきます。機械では測れないほんのわずかな味の違いを、シェフは自分の「ベロメーター」で測っていくのです。煮込み時間や調味料の分量はもちろん決まっていますが、最後は人が感じる繊細な感覚で調整します。ベロメーターでの確認作業は、スープ完成直後と翌日の2回行われます。動きは一定化され、同じ順番、同じリズムで。それはまるでスープに捧げる儀式のようです。

ボルシチは夜出来る?

いま、あなたが食べている東京ボルシチ。その東京ボルシチの中にしずむ牛肉は、一晩をかけて低温でじっくりと煮込まれ、柔らかなひとかけらになっていきます。一晩中、じっくりじっくりじっくりと。やがて朝になり、東の空が白んでくる頃、夜通しかけて煮込まれた牛肉は鍋から引き上げられ、旨味の染み込んだ出汁とそれぞれに分けられます。そして飴色になるまで同じくじっくりと炒められた玉葱や香味野菜、煮込んだ出汁と再び合わさって調理され、ボルシチは完成します。長い夜を越えて出来上がったボルシチを、あなたは今、召し上がっているのです。

実はSoup Stock Tokyo の店内にもアートがある?

いかがでしたか?Soup Stock Tokyo MUSEUM、楽しんで頂けましたでしょうか?最後に、実は、このSoup Stock Tokyoの店の中にも作品があるんです。お台場のヴィーナスフォートに一号店ができたときから、各店舗の壁にかかっているタイルアートです。Soup Stock Tokyoは、スープに彩りがあるので、店舗内の造作やリーフレットも、意味のない色は使っていません。店は、木やステンレス、ガラスなど素材そのものによって構築されています。唯一、店の中にある色が、このタイルの絵の色。一つひとつに作品名はありませんが、あえて言うなら「The color」。どうしてタイルかといえば、タイルとは土から出来ています。ですが白い釉薬をかけることでヒヤリとモダンな表現になっている。有機性とモダニズムの同居。ですから、広尾店など初期の作品は、野菜を筆代わりに描かれていたりするのです。土という素材を現代のモダニズムに構築する。このタイルの絵は、Soup Stock Tokyoそのものを現している、とも言えるわけです。

『収穫』フィンセント・ファン・ゴッホ ©Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation) / 『ブドウの収穫、人間の悲惨』ポール・ゴーギャン ©Ordrupgaard, Copenhagen Photo: Anders Sune Berg / 『ハム』 ポール・ゴーギャン ©The Phillips Collection, Washington, D .C. / 『タマネギの皿のある静物』 フィンセント・ファン・ゴッホ ©Kröller-Müller Museum, Otterlo