Soup Stock Tokyo

Soup Friends Vol.48
梅原 陣之輔 さん

梅原さんのにこやかな目元は、目の前で食す人の幸せな笑顔が映るから自ずと優しくなったのかもしれません。大分県に生まれ、自然と豊かな食材、家業が飲食店という環境で育った梅原さんは「日本料理」の本質的な価値を、そのおいしさと共に一人でも多くの人に届けたいと願っている料理人です。8年間総料理長を務めた「坐来(ざらい)大分」では、大分県の旬の食材を使い、懐かしさと洗練さが居合わせる料理を多くの人々に届け、いまも顧問として関わっています。現在は目黒区にある和食料理店「八雲茶寮(やくもさりょう)」にてふたたび総料理長として五感と味覚に訴える料理を、食材と向き合い、技術を用いて腕を振るう日々を送っています。私たちのルーツである「日本料理」について、お話を伺いました。

料理と私

──「汁物」とは日本人のみならず人類にとって命を温めるような存在だと思いますが、ご自身にとって想い出深い一杯のスープはいつどこで食べたスープですか?

大分県国東地方の「おちゃまま」(茶粥のこと)というものがあります。雨が少なく、稲作が難しい中山間地においてお米はとても大切な存在です。各家庭で茶葉を焙じて焙じ茶を作り、粥にそそいで茶粥にします。茶葉は少し大きく育てたものを焙じます。汁は多めですが、家族に少しでもおいしい茶粥を食べさせたいという想いや工夫が感じられ、おいしさ以上のものを感じる一品です。

──「日本料理」のなかでもご自身が一番好きなメニューはなんですか?また「日本料理」の優れている点を挙げるとしたら、どんな部分がありますか?

炊きたての白いご飯です。それから、優れているなと思うのは日本なりの進化をした発酵料理の文化があるところです。

──現代人の食生活のなかに取り入れるべきとお考えになる習慣や、これだけは取り入れてほしいと思う「食事」への姿勢はありますか?アドバイスをお願いいたします。

いろいろな意見があると思いますが、おかず、米、汁を順序よく食べる「三角食べ」と、味付けしていないご飯をおかずや漬け物などの味のあるものと一緒に食べる「口内調味」です。どちらもお米をお米として、おかずや素材そのものの良さをきちんと味わって食べることができる具体的な方法で、とても大切だと思います。

「味覚」のルーツは里芋の味

──なかなか「朝粥」を食べるのは習慣になりにくいのが現状です。どんな風に食すのが親しみやすいでしょうか?

禅宗の修行僧が使用する、塗りや鉄製の器「応量器」を使って召し上がると、形式美の持つ空気感と共に朝粥を食すことができ、ひとつの風情ある食べ方になるのでは、と思います。

──ご自身にとって「味覚」のルーツとなるのはどのような体験でしたか?

祖母が畑仕事の合間に焚火の中で焼いてくれた里芋は格別でしたね。焚火の香りと、素朴な里芋の味が情緒的な味覚を含み、それまでさほど好きでなかった里芋が、さつま芋よりおいしく感じられたのです。それから、お正月のお雑煮も味覚の原型を形作っていると思います。昆布・鰹節の出汁に、鰤(ぶり)、鯣(するめ)、干し椎茸も入ったお雑煮には丸餅を入れて食べました。

──世界に向けて「日本料理」がもたらす影響はどのようなものでしょうか?または何を求められていると感じますか?

まず味覚的には、糖や脂肪を軽減できることから、糖や脂肪過多の食事から脱却することができます。また、良いものは贅沢なもの、という考え方に留まらない本質的でシンプルな料理が実現できるだけでなく、形式美や様式美においても日本らしいミニマムな提案によって、華美でなくともおいしくて美しい料理に仕上がるのが「日本料理」だと考えます。さらに、料理全体の構成力とバランスの良い食事は、世界でも他には見られない大切な要素なのではないでしょうか。

──現在の八雲茶寮(やくもさりょう)の総料理長のお仕事も勿論、これまでも食のお仕事をなさるなかで、ご自身にとっての「原動力」はなんですか?

幸せの共有です。

──日々の生活の中で「食」を意識し始めたのは、いつ頃、どのようなきっかけからだったのでしょうか?

実家は飲食店をやっていますので、色々な方が食事をするシーンを見てきました。人にとって食に対する向き合い方は様々です。私にとってはその頃から「食」は「食べ物」というよりコミニュケーションツールだと感じていました。具体的に「食」を意識し始めたのは、この仕事について諸先輩方の影響を受け始めてからですね。

料理を作り、自分の気持ちを見つける

──「料理を作る、食事を食べる」ことが、暮らしそのものに及ぼす影響はなんでしょうか?人生のなかで「食」がもたらすことの大きさなどを含めて教えてください。

料理を作ると、日々の中に小さな驚きと発見があります。先人たちの知恵や工夫に触れると、自分のなかに大切な人や物を思いやる心を見つけることができて、共感し、感動するのです。その思いは「おいしい」を通して大切な人に伝える事ができると思っています。

──都会で働く人へ「朝ごはん」に対してメッセージをいただけますか。

忙しい方こそ、未来の自分を作る朝を 大切に過ごして欲しいですね。

梅原 陣之輔(うめはら じんのすけ)

料理人。1969年大分県生まれ。飲食店を営む家に生まれ、幼いころから食の世界に触れて育つ。京都を皮切りに日本料理を学ぶ。平成18年、日本料理離れを危惧し、若い人にも気軽に日本料理に触れてもらえるダイニングレストランを提案し、レストラン型アンテナショップ「坐来(ざらい)大分」を運営開始。同店舗にて8年間総料理長を務める。地方活性化や食観光・六次元次産業化を含む首都圏情報拠点としてさまざまな料理やイベントを行ってきた。昨年より、日本文化創造に取り組むSIMPLICITYに入社、クリエイティブディレクター緒方慎一郎氏の元「八雲茶寮(やくもさりょう)」総料理長としてその腕を振う。農林水産省「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞、大分県 県賞詞受賞など受賞多数。

八 雲 茶 寮 

温野菜とチーズのブラウンシチュー

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