Soup Stock Tokyo

Soup Friends Vol.40
アツコ・バルーさん

2013年の6月に渋谷、松濤にオープンした新しいアート・カルチャースペース『アツコバルー arts drinks talk』はアート作品とアーティスト、それを見るお客さんが混ざり合い、語り合う開かれたギャラリー。詩人で音楽家のピエール・バルーさんと出会い結婚、彼から鮮烈な影響を受け、フランスに暮らす年月は25年。独創的な日々の中で培われた突き抜けた価値観、まっすぐに澄んだ文化に対する想い、そして実現化する行動力。アツコ・バルーさんを動かす好奇心に満ちた人生について、お話を伺いました。

「音楽、アートから食まで」

──お好きなスープはありますか?

チキンスープが一番好きです。世界で一番おいしいものだと思っています。鶏ガラとブーケガルニ(香草類を数種類束ねたもの)に加えて、無くてはならないのがセロリです。煮込みすぎず、程よい加減で作ります。料理をすることは、時々好きです( 笑)。予定のない日曜日の午前中なんかにゆっくり時間をかけて料理をするのがいいですね。

──フランスにお住まいになっていらっしゃった頃の食事の思い出を教えてください。

フランスの家庭料理はとても質素です。レストランでは重い大きな肉のこってりしたイメージがありますが、実は家庭では野菜ばかり食べます。例えば、葱の茹で汁に塩を入れただけのスープが夕ご飯なんていうシンプルなものもあります。フランス人ならではの、無駄のない生活と言えるかもしれません。

──「 ラミュゼ」や「サラヴァ東京」、ギャラリー「アツコバルー」を始められたきっかけを教えてください。

日本に帰国して活動を始めようと決めたのは、かつて私が旦那さん(音楽家のピエール・バルーさん)と暮らしたパリのキッチンを、日本にも作りたいと思ったことがきっかけでした。我が家には毎日のように人が訪ねてきて、歌を歌ったり、料理などもあり、ものを皆で作り、何時までも語り合い、キッチンで新しい歌や映画の計画が生れました。家庭内で子育てをしながら創造の瞬間を、共有させてもらいました。そういう体験を一度すると、その人の人生が変わると思うのです。親戚や家族に芸術家がいないとそういう体験はなかなかできません。アイデアが生まれてから完成するまでの経緯が一番面白いのですけれどね。そこで、程よく開かれ、程よく閉じた場所を作りたい、と考えました。くつろげるいつもの場所というのが大切だと思います。2003年に始めた頃のギャラリーは、心もよそ行きになってしまう気取った場所でした。でも寝転がってアートをみてもいいじゃない。日常の中にアートを取り入れていきましょう、そういう考えで始めました。

アートは自分を映す鏡です。ぜひ買いましょう。

──アートはアツコさんにとってどんな存在なのですか?

小さい子どもって、未来に溢れているじゃないですか。どんな風に人生を歩むのかな? と想像する楽しさがある。それに似ています。作品を見ると、人は自分のストーリーをそこに投影していくんです。そうすると自分だけの特別なものになっていきます。好きになったものに付加価値をつけることによって、自分自身も豊かになっていくんです。そして時間が経っていくと、作品がまた違う見え方をしてくるんです。好みももちろん変わりますし、そこに見いだしたいものも変わってきます。先日知人が言っていたのですが、アートは鏡だと。その時の自分自身を映すものなんです。だから良い鏡を買って今の自分を映す。皆さんアートをぜひ買いましょう。身銭を切ることで作品も語りかけてくれるのです。

「才能」に出会うと突き動かされる

──アツコさんにとっての「原動力」はなんですか?

「 才能」です。才能に出会うと何かしなきゃと思うんです。才能が持っているパワー、宝石の原石のようなものを見ると、多くの人にそれに触れさせていかなきゃいけない、と思うんです。財産と呼ばれるものの中にある「お金」っていずれ消えてしまうのです。でも文化だけは残ります。イタリアのフィレンツェに昔あったメディチ家は沢山の画家を育て、出資した財閥として有名だけれど、彼らの子孫が今いくらの預金残高があって事業がどうなったかなんて誰も興味がないでしょう。彼らが残したアートだけが歴史のふるいにかけられ残っている。文化をつくることができる「才能」こそが、唯一の財産だと思います。

──アツコさんのアイデンティティは日本とフランスのどちらにあるんでしょうか?

25年間フランスで暮らし、旦那さんに出会ったことで私の人生が変わったんです。彼は希有な詩人であって、彼の持っている価値観とか世界観にすごく影響されました。風のように身軽な生き方をする人なんです。旅に出ても宿には泊まらない、出会った人の家に泊まります。私や子どもたち3人と一緒に(!)。彼の独特のセンスと嗅覚だけで生きていく、私は江戸っ子ですが価値観は彼に教わりました。その両方を大切に思っています。

アツコ・バルー

パリ第五大学人類学科卒業、フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L’amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー ar ts drinks talk』(2013 年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

アツコバルー ATSUKOBAROUH arts drinks talk 

温野菜とチーズのブラウンシチュー

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