Soup Stock Tokyo

Soup Friends Vol.25
松永耕一さん

CDショップのバイヤーやDJとして活躍し、最近では新たなプロジェクト『SOMETHING ABOUT』を立ち上げるなど、音楽にまつわるあれこれを次々と形にする松永耕一さんをお迎えして、Soup Stock Tokyoの店内で流れるBGMや、4月下旬発売予定のCD『Soup Stock Tokyo の音楽』の選曲について伺いました。

松永さんにはSoup Stock Tokyo(以下、SST)の店内で流れるBGMをセレクトしていただいていますが、SSTをご利用いただいたことはありますか?

はい、あります。なかなか男ひとりでは入りづらいところがありますが(笑)、Soup Stock Tokyo の店内BGM を選ばせていただくようになってからは、出かけた先々でお店に入ってみて、さりげなく音に耳を傾けながら、選んだ曲が店内のボリュームと合っているかなとか、空間にきちんと馴染んでるかな、などと確認しながらひとりひっそりとスープをいただいたりしています(笑)。

BGMを選ぶ際には、どのような点に気を配ってセレクトしていただくのでしょうか?

おとなの女性がひとりでも入れるお店ですから、そのイメージも大切にしながら曲を選んでいます。さりげなくかかっている音楽だけれど、どこかで感受性に訴えかけられたり、ふとした時にお客さまの心に届くといいなと思います。曲は朝、昼、夜と充分な数の曲を選び、1日のうちで同じ曲はかからないようにしています。よくもわるくも少なからず個性は出ていると思うので、お客さまの中には音にすっと馴染む方もいらっしゃれば、趣味じゃないという方も当然いらっしゃると思います。始めたばかりの頃から比べると、幾度となくふるいにかけて、方向性がまとまって見えてくるようになりました。SSTの世界観を音楽で表現できるように、ちょっとしたお手伝いというか道標のようなものとして、スープをよりおいしく感じていただければいいなと思います。基本的に自分は、音楽がない空間というのもあり得ると思っていますが、音楽には聴くだけで気持ちが豊かになったり、あるイメージを想像させたり、あるいはそれによって何かを考えさせられたりする効果もあると思うんですね。無音というのも、ある種の音だという捉え方もありますし、音楽との接し方は人によって様々ですから、決して音が立ちすぎず、空間にできるだけ浸透するような曲を選ぶように心がけました。日本語の曲もあえていれていますが、その音楽自体がもつ時代背景なども含めて考えるようにしています。

松永さんがお仕事としてDJをなさる時に音楽を選ぶことと、空間に合わせて音楽を選ぶことに違いはありますか?

DJをするための音楽と、空間に合わせた音楽は、まったく逆なのかもしれません。DJの場合は、その人がかける音楽を聴きたいからその場に出向くというのが前提で、音をかけているその人自体が目的になっているわけですが、空間に合わせた音選びというのは、音が出向く目的になっているのではなく、SSTの場合はスープを召し上がるためにご来店されるわけですし、その空間や世界観の上に音楽があるので、曲を選ぶプロセス自体にも違った面白さがあります。一方で、SSTのお仕事をいただくようになってから、曲を選ぶ時に大切にしていることとしてひとつ言えるのは、様々なジャンルの音楽を紡ぐ中でも“それぞれの音の粒を揃えたい”ということです。ジャンルを問わずいろいろ聴いても“聴き疲れしない”という要素を大切にしたいと思います。それを自分のアルバムの中でも表現しようとしているので、この点に関して言えば、不思議なことに、自分の表現としての音楽とSSTのBGMを選ぶことは、同じ線上にあるのかもしれません。

4月下旬に『Soup Stock Tokyoの音楽』というコンピレーションCDが発売予定ですが“家で聴くための音楽”をどのような視点で選んでいただきましたか?

店内で流れるBGMというのは、“1日、あるいは1週間、1か月という周期の中で大きく循環させる”イメージです。その一定の期間の中で何かを届けられるように選んでいます。しかし今回は、CDというひとつのパッケージにまとめるということで、録音することができるおおよそ74分という決められた時間の中で、SSTの世界観をお届けしなくてはなりません。なおかつ“モノ”としても魅力的なものを目指したいですしね。また、聴き方も多様でしょうから、曲順どおりにかけることはもちろん、ランダムに聴く場合もあるでしょうし、なるべくいろいろなシーンに対応できて、居心地の良さが違和感なく途切れずに済むようにという心づもりで選んでいます。しかも、74分の間に“音の旅”を着地させなくてはならないですしね(笑)。暮らしの中にさりげなく寄り添いながらも付かず離れずの距離感で鳴っているようなイメージで、そこから先は聴き手のそれぞれの音楽との距離感で楽しんでいただきたいので、その曖昧さも担保できるように選びました。

スープ(汁物)にまつわる想い出があればお聞かせください。

あらかじめ用意してきた答えではないのですが(笑)、元々汁物が大好きで、僕にとってはなくてはならないものです。食事をする時に汁物がないと食べ終わった気がしないんですよね。定食屋やレストランでも汁物がない店には、どんなにおいしくても通い続けるまでには至らないこともよくあります。汁物の想い出と言うと、やはり母が作ってくれた具沢山な麦味噌の味噌汁でしょうか。歳を追うごとにその想いは強くなっていて、久しぶりに帰省して実家の味噌汁を飲むと、野菜がたっぷりと入っていて素材の味が溶け出し、いい具合にとろみも出ているあの感じが、以前にも増して心に染み入り、「あー、やっぱり東京で飲む味と違うなぁ」と思ったりします。やはり実家の味噌汁っていうのは誰にとっても、他のものとは比べられない特別なものなのかもしれませんね。最近ではすっかり家にも麦味噌を常備して、熊本館(東京・銀座にある熊本県のアンテナショップ)に通ったり、母に麦味噌を送ってもらったりしていますし、味噌汁のだしも、煮干しを頭ごと入れる実家のスタイルをそのまま実践してみたり。東京にはいろいろな地域から人が集まっているから、人柄と味つけはその土地と密接に結びついているような気もしますし、地域ごとに懐かしい味が違ったりして、そういうこともとても面白いですよね。例えば醤油ひとつとっても地域ごとに味わいが異なるし、熊本ですら刺身醤油と馬刺醤油は厳密に言うと違いますからね。最近は家にも濃口の刺身醤油を揃えてみたりして、刺身を食べる時に使ったりしています。以前と変わらずに東京に住んでいますが、以前よりも自分のルーツに近づいているという感覚があります。

ご自身でお料理はなさいますか?

一時とても凝ってよく作っていました。昔住んでいた下高井戸の駅前に庶民的で充実した品揃えの市場があって、八百屋だけで7〜8軒、魚屋だけでも4〜5軒はありました。それぞれの店に持ち味があって、通っていくうちに回る順番や買い方がわかってくるんですね。そのうち、この店は葉ものがいいとか、ある店は個性的だけど独自のセレクトが光っているとか、納豆ならこの店とか、量が必要な時にはこの店とか、個性の違いがとっても楽しい市場でした。市場のおじちゃんやおばちゃんの“粋”を食材と共に持ち帰って、自分の中にも循環させたいと思いました。それまでは外食が多かったのですが、その市場に出会ってからは、相当な割合で自炊をしていましたね。酒のつまみ作りから始まったのですが、魚屋で鯖を1匹買って来て、自分で塩をふって半生の〆鯖を作ってみたりして。これが本当においしくできたのです。また自炊をするようになったからこそ、改めて外食の有り難さを感じたりもしましたね。

おいしいものを求めて旅をするとしたらどこへ行きたいですか?

香港にある男人街(だんじんがい)というエリアがあって、その界隈には電化製品とか屋台居酒屋がひしめき合い、夜中まで家族連れで賑わっているようなとても不思議な雰囲気を醸している場所なのですが、そこで食べた“しゃこの油炒め”の味が忘れられず、時間があればすぐにでも食べにいきたいですね。大皿にしゃこが20匹くらいびっしりと入っていて、にんにくと油で炒めてあるのですが、地元の安いビールを片手でたぐり寄せながら食べる感じと、ものすごくリーズナブルな価格も含めて、めちゃくちゃおいしかったです。

最後に、松永さんが取り組まれているプロジェクトがあればお聞かせください。

『SOMETHING ABOUT』というプロジェクトを立ち上げました。音楽の枠を超えて、サムシング・アバウトな心意気のあれこれをお届けできるように邁進したいと思っております。近々ホームページも立ち上げる予定です。少しずつではありますがご期待ください。

松永耕一/まつながこういち(a.k.a. COMPUMA)

熊本生まれ。ADS、スマーフ男組として活動後、SPACE MCEE'Z(ロボ宙&ZEN LA ROCK)とのセッション、2011年の春にはUmi No Yeah!!!のメンバーとして、フランスなど5ヶ国を巡るヨーロッパツアーを経験。DJとしては日本全国の個性溢れる場所で、日々フレッシュでユニークなファンク世界を探求中。『ap bank fes』での選曲やkoti marketの音楽プロデュース、Soup Stock Tokyoほか商業店舗のBGM選曲、CMや映画音楽などの効果音楽制作、執筆、レコードショップのバイヤーなど、音楽にまつわるシーンで幅広く活動中。NEWTONE RECORDS、EL SUR RECORDS所属。

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